小沢信男著作 221 

 稲垣足穂、松の門三艸子、芦原将軍などについて書いてきた結果についてです。
小沢さんのあとがきの続きです。
「 これが踏切り台になったのか、その後もおりふし、風変わりな人々の評伝にとりくむ
機会がめぐってきました。書き溜まるほどに、いずれは<近代日本破天荒紳士淑女録」と
でも題して、集大成する日がくるだろうか。その一環として、放浪の画伯山下清に注目
したところ、やたらおもしろくなってのめりこみ、無慮七百枚の『裸の大将一代記ー
山下清の見た夢」を書き下ろしました。がんらい遅筆で寡作の身には、空前の大仕事で
した。その肥やしとなったのだから、余の評伝類はもって瞑すべし。
 そのまま光陰矢のごとく過ぎるうちに、右の書き下ろしの産婆役の松田哲夫氏が、ふい
に声をかけてくださった。あの肥やしどもからまた一冊育つ頃あいではないか。
そうだった。目の黒いうちに穫りいれようと、集大成ならぬ精選版へきりかえて、四篇
とも推敲をほどこしました。かえりみれば十代から六十代までの私と、七十代のいまの
私との共同制作というあんばいで、こういう機会をえたことが最大の幸運です。」
 小沢さんの初期には、犯罪ものがあって、それは「犯罪紳士録」という形でまとまって
いるのですが、それと同様にして、風変わりな人々の評伝を書きためて一冊にという計画
があったのですね。この計画は、山下清評伝という仕事のために頓挫してしまうことに
なります。たぶん、「昨日少年録 亀山巌」さんも、<破天荒紳士録>に掲載される
お一人でしょう。そのほか、埋もれてしまって、目に付きにくくなっている風変わり
さんについてのものもあるのでしょう。