小沢信男さんの歴史人物ものですが、昨日の参考資料の一覧を見てもわかるように、
ずいぶんと仕込みに時間がかかっています。「悲願千人斬の女」の初出は「新潮45」
96年二月号、三月号でありますが、この時点では、これが単行本となるかどうかも
わからないのですからして、ほとんど赤字覚悟の仕事となりますね。もともと小沢さん
には、赤字とか儲けという考え方がないようですが。
昨日も引用を行いましたが、「文献の藪へ踏み入ってみる。われながら物好きな気が
しないでもないけれども。」であります。
そうしたおかげで「松の門三艸子」さんの生き方が、現代に甦りました。
この本は、朝日新聞の書評欄(2004年10月10日)で取り上げられましたが、この評
者がなんと中条省平さんでありました。小沢さんの著作と中条さんの組み合わせと
いうのが、まるで意外な感じでした。
この評の見出しには、「破天荒な奇人列伝、至芸の名調子で」とあります。
この評を、はしょって紹介させてもらいます。
「『犯罪紳士録』の著者による破天荒な奇人列伝。一度よみはじめたらやめられない
ほど面白い。山田風太郎の明治ものをもっと実証的に仕上げた趣だが、著者の口調が
講談の名人のように弾んで、それじたい至芸として結晶している。・・・
小沢名探偵は、終始、この侠気あふれる江戸っ娘・三艸子をえこ贔屓しながら、実証
と推理を展開し、快刀乱麻を断つごとく千人斬の真実を斬ってみせる。そのスリリング
な名調子をとくと堪能あれ。
残る三人は男で、現代では三艸子よりはるかに有名人。それだけにどこかで聞いた
ような話もまじるが、先にもいったとおり、ここは小沢信男の名人芸を楽しむべき極上
の寄席なのである。聞いたことのある演目だと目くじらを立てるような野暮天には端か
らお引きとり願おう。・・
いずれ劣らぬ怪人・奇人の愛すべき言行録だ。千人斬ってくださいとはいわないが、
もっともっと続編が読みたい。」
この評を見たときは、驚いた記憶があります。小沢さんとフランス文学者 中条さん
という組み合わせが意外であったことと、このように小沢さんの「口調が講談の名人芸
のように弾んで、それじたい至芸」とあるのを、よくぞいってくれたと思ったので
あります。