久しぶりに本屋へ 3

 松田哲夫さんの新刊を購入したのは、小沢信男さんを取り上げているからでありま
した。
 松田哲夫さんが、小沢信男さんを担当することになったのは、小沢さん五十歳をこえ
た頃のことだそうです。小沢さん1927年生まれ、松田さん1947年生まれでありますか
らして、20歳違いですね。最初の本は「犯罪紳士録」もちろん筑摩書房の本です。

犯罪紳士録 (1980年)

犯罪紳士録 (1980年)

 これはその後、講談社文庫を経て、ちくま文庫入りとなるのですが、小沢信男さんの
犯罪ものの集大成となります。良く売れたことこともあり、小沢さんの本では一番入手
が容易であります。
 この本のあとがきには、「本書がこういう形にまとまったのは、筑摩書房編集部の
松田哲夫氏のおかげであった。」とありました。
( http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20110326 )
 松田さんが、この本で小沢さんのことを、こういっています。
「小沢さんとつきあうようになってわかったのだが、この人は視点がいい、文章がいい、
その上、人柄がいい。まさに三拍子揃った作家なのだ。前記したように犯罪ルポに新し
いスタイルを作ったし、近代日本の風俗にはとりわけ造詣が深い。東京を隅々まで散歩
して、洒脱なエッセイを書いている。文学、歴史、風俗、犯罪、東京などなんでもござれ
なので、文庫の解説、PR誌のエッセイなど気楽に引き受けてくれる。
 これだけの人がいつまでたっても『知る人ぞ知る』という存在でいたのは、ひとえに
『欲がない』からだ。」
 「欲がない」小沢さんに、そろそろライフワークとなるものをと檄をとばして書いて
もらったのが「裸の大将一代記」であるとのことです。これとそれに続く書き下ろしの
「東京骨灰紀行」は、小沢信男さんが普通であれば老大家といわれるような年齢になって
からも枯れない文筆家であることを強くアピールしました。
東京骨灰紀行 (ちくま文庫)

東京骨灰紀行 (ちくま文庫)

 この限りでは、長らく小沢ファンであった当方は、編集者 松田さんに感謝しなくては
いけませんです。
 それでも、次のようにあったりするところには、そうかなと思ったりもするのですよ。
「彼の出版歴を辿ってみると、四十代までは小説、エッセイ、ルポなどを雑然とまとめた
本が目立つ。まるで大作家の晩年のようである。」
 四十代まではそんなに著作が多くないのでありまして、目立つというほどのものかなと
思います。たぶんここでいわれているのは「若きマチュの悩み」のことと思いますが、
当方は、この作品集好きでありまして、こういうふうな書き方をされると、ちょっと違和
感であります。
 これは松田哲夫さんの編集方針と、新日本文学系の編集者(創樹社の)の違いでありま
しょう。松田さんのほうが、より多くの人にアピールする(欲のある)本づくりを目指
したということなのでしょう。