小沢信男著作 109

 小沢信男さんの名古屋豆本版「東京百景」は、豆本句集とあります。ここで小沢さんと
俳句についてのことを、辻征夫さんの文章から引用してみます。
 辻さんは「余白句会」の中心メンバーでありますが。もちろん詩人で、引用する文章は
「ゴーシュの肖像」に収録のものです。
「 ときどき、十人ばかりで集まって、句会を開いて遊んでいる。みな詩を書く連中ばか
りで、三人の例外を除いて、この句会以前に俳句に取り組んだことがあるという者がいな
い。例外その一は最年長の小沢信男氏で、この方はなぜか昔から俳句をやっていて、昨年
の暮れにでた多田道太郎教授の『お昼寝歳時記』にも句がたくさん採録されている。なん
でも数では芭蕉の次くらいということで、とりあえず、私はへーえと簡単の声を洩らして
おいた。・・
 そもそも私たちの句会は、一九八六年にある雑誌の仕事で、小沢信男氏と私が一緒に
なったことに始まる。毎月一回、二年間、本郷の小出版社で顔をあわせていたのだが、
その仕事が終わったとき、ふとしたきっかけで連句というものを経験したのが最初だった。
・・
やがて連句は難しいから普通の句会にしようと勝手に決め、気がついたらもう、この八月
にやったのが十九回目だそうである。」
 辻さんが94年「読売新聞」によせたものです。
 本郷の小出版社というのは、「詩学社」であったでしょうか。
 この辻さんと小沢さんの最初の出会いの時のことでしょうか、辻さんが好きな句として
  学成らず もんじゃ焼いてる 梅雨の路地
 をあげて、それについて小沢さんが、これはわたしの作品と名乗りをあげる話がある
のですが、結局のところ、この出会いが小沢さんをして、俳句の師匠としたものです。