本日も「世がたり」を

 年越しの買い物にいったりする時に、コートのポケットに小沢信男さんの「俳句
世がたり」を入れていきますと、買い物がちょっと長くなって、一足先に車の中で
終わるのを待っている間も退屈しません。どうぞゆっくりと買い物をしてください
なという気分になります。

俳句世がたり (岩波新書)

俳句世がたり (岩波新書)

 小沢信男さんの文章がうまいのは、つとに有名でありまして、ちょっと古いのです
が、2009年11月刊の「本の雑誌」で特集が組まれた「昭和の雑文家番付」でも堂々の
ランクインでありました。この刊行時に、拙ブログでも話題にしたことがあったので
すが( http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20091108)、あらためてその特集にあった
坪内祐三さんの小沢さんにかかわる部分を引用です。
「 文章が粗いのが雑文ではなくて、ジャンルが決まってないってことが雑文なん
だから、そういう意味で文章がすごく上手な雑文家って、ぼくは小沢信男さん。
 前頭九枚目か十枚目に小沢さんをおきたい。前頭十枚目前後ってすごく重要なん
ですよ。壁なんです。ベテランの人がそこにいて、下からあがってきた新鋭がぶち
あたる壁になるわけ。」
 この番付で、どなたが横綱であったのかは忘れておりましたが、いまほど拙ブログ
を見直して確認しました。なるほどの面子がならんでいるのです。
 この時代に現存している文筆家に限ってで番付をつくるとしましたら、このときに
前頭十枚目といわれた小沢信男さんは、どこまで出世していますでしょう。大関
なっていても不思議ではないことで、日本の国技の大相撲の大関をはっている力士
よりずっと実力は上でありましょうよ。
 今回の「俳句世がたり」は、同一作者の作品二句をはじめと終わりに配して、
サンドイッチのパンとして、間に挟まっている具は、野菜だったり、ハムだったり、
カツだったりするのですが、それだけに終わらずミックスなんてのもあって、その
味わいが絶妙です。
 こんなに具材を詰め込んで、こんな文字数でおわるのだろうかと思って読んでい
ましたら、ぴたっと最後の句でまとめられ、思わず文章名人の芸であるなと小さく
拍手をしてしまいます。
 小沢さんひいきの当方のいうことでありますが、まあだまされたと思って本書を
手にとって見てください。
 たとえば冒頭10ページから掲載のものです。鈴木真砂女さんの句からはじまり
井上ひさしさんの死、井上芝居「頭痛肩こり樋口一葉」と新橋耐子、井上ひさし
俳句感へと話題を転じてから、真砂女の人となりを紹介し、真砂女の句で締めます。
最後の句には、「頭痛肩こり」での新橋耐子さんのあたり役である「蛍」まで
はいってくるのですから、なんとまあ重層的であることかです。
これがわずか2ページ半に展開するのですから、ほんとすごいことです。