小沢信男著作 196

 多田道太郎さんは小沢さんの句集「んの字」の解説で、「鳥渡る十句」を激賞していま
す。多田さんが「物語俳句」呼ぶところの連作を、すべて引用したいところであります
が、これはぐっとがまんです。句集「足の裏」では、この連作は巻末におかれています。
連作の最後におかれた作品は、句集「足の裏」のおしまいの作品でもあります。
 句集の掉尾を飾る作品のみを、引用することにいたします。
    鳥渡るはらからの骨ひろうとき
 句集の題となって「足の裏」というのも、この連作に由来するものでありました。
こうしてみると、この句集自体が、亡き妹さんに捧げられているように思えます。
 句集「んの字」は、小沢さんの既刊句集の作品をまとめたものでありますし、いまから
ほんの10年ほど前のものですから、そんなに入手が難しくないと思いましたが、これも
けっこう入手が難しそうであります。
 あえて、作品の引用は控えることにしますので、是非とも「足の裏」か「んの字」を
さがして見てくださいです。
 句集「足の裏」あとがき後半部分の引用です。
「 いま三つの句会に、かかわっている。一つは、辻征夫氏をはじめ現代詩人たち十余人
の集まる『余白句会』で、たぶんもう十年越しになる。いきおい多少は上達したことに、
同人のだれもが多少の不満をおぼえているようで、俳句は下手がいいのかもしれない。
 墨田区生涯学習センターの『俳句を楽しむ』講座の講師を、一九九五年春よりおそれ
げも丸二年つとめた。その人々が二つのグループになって月例句会をひらいているので、
すくなくも月に二回は隅田川を渡る。そのたびになにかなつかしい。この川は江戸ー東京
の、やはりふるさとの流れなのだろう。
 どうしてこうも果報がかさなるのか。びっくりの『仰天句集』とでもいうべきものを、
狼狽して逆に口走って『句集・足の裏』。ごめんなさい。」