小沢信男著作 102

 「書生と車夫の東京」の第三章は、映画評となります。前に紹介した「大東京24
時間散歩」にも収録されていましたが、この本でも映画評の部分だけは二段組みと
なって、27ページにわたり映画評があります。小川徹さんが編集長をつとめていた
映画芸術」に掲載されたものが中心となります。
 どのような作品が取り上げられているでしょうか。
 1982年6月号掲載
 フランソワ・トリュフォー  「終電車
 稲尾実  「痴漢満員最終電車」「痴漢いたずら環状線
      「痴漢美容師・下もかけます」
 山本晋也 「痴漢変態電車」
 高橋伴明 「TATOOあり」  
 
 「終電車」から「痴漢変態電車」までは、電車つながりとでもいうのでしょうか。
「痴漢美容師」は、同じ監督だからはいっているのでしょう。稲尾実と山本晋也
作品は、「横浜の野毛通り裏の映画館でまとめて見た。四時間あまり固い椅子に
座って尻が疲れた。」とあります。82年くらいの野毛の裏通りには、このうような
4本立て映画館があったのですね。
映画芸術」には、ピンク映画の批評などもあったのですが、この四本はいずれも
東宝のものでしょうか。稲尾実監督を検索をかけても、作品の全体は見えてきま
せん。山本晋也監督も、日活で作品をとるまえの作品のようです。そういえば、
高橋伴明監督も、いぜんはピンク映画作品で活躍していたかたです。
 このなかでは、「満員痴漢最終電車が一番おもしろく、とりわけ最終場面が印象
深かった。」とありますが、最近はこの作品がネットからのダウンロードでみること
ができるのですから、驚いてしまいます。
 「TATOOあり」は、1979年1月26日に大阪「三菱銀行北畠支店」に散弾銃を手にして
躍り込んだ、梅川が主人公のものです。これは「犯罪紳士録」に追加された人です
から、そうした関心でこの作品が取り上げられたのでしょう。
( ちなみに、この本の最後におかれた「近代日本殺人紳士淑女録 抄」の最後を
飾るのも梅川昭美でありました。)