小沢信男著作 65

 「あほうどりの唄」に続いての著作は、「いまむかし東京逍遥」(晶文社刊 83年12
月)となります。小沢信男さんの著作で、書名に「東京」という地名がはいったものは、
これで三冊目ですが、「東京の人に送る恋文」は、東京に関しての文章が中心ではあり
ません。
「大東京24時間散歩」は、東京に関わる文章が多く収録されていますが、この時は、
東京の労働現場のルポというもので、東京のまちそのものを書いた文章はあるものの、
それがメインではありません。
 小沢信男さんの「いまむかし東京逍遥」のあとがきには、次のようにあります。
「本書の諸篇を、私は折々の求めに応じて書いてきた。できますものは、評論、随筆、
ルポ、講演、書評、時評、インタビューに、匿名のコラム記事まで。要するに雑文を、
ほそぼそひさいできたのであるが、こうしてまとめてみると、よくもまあ臆面もなく私情
を書きつらねてきたものだ。この一冊が、まるごと私小説のようなものではあるまいか。
処は東京、時は昭和、人物は超高層・ハイウェイ・デジタル時代の当今いまだに時代錯誤
の二本脚で、なんとなくそこらを歩いている男の。」
 小沢さんは「まるごと私小説」のようなものといっていますが、これは自らの小説に
ついてではなく、評論や雑文についてのコメントであります。文章の至る所に小沢さんの
姿を見いだすことができるものを集めたものが「東京逍遥」なのですね。