小沢信男著作 50

 小沢信男さんの著作紹介も50回となりました。寄り道ばっかしでさっぱり中身はない
のでありますが、小沢さんの旧著はなかなか手にすることができないので、すこしは
喜んでくださる方もいますでしょう。
 ここ数日は「大東京24時間散歩」(現代書林刊)をとりあげていますが、収録され
ている文章は、なんらかのかたちで東京に関わりのあるものとなっています。
戦後の高度成長期を経過して変わりゆく東京の労働現場のルポ、そして町の景色、それ
を映像にとどめた映画などからなります。
 これに収録の東京町歩きの文章は、60年代初めにタウン誌「うえの」に寄稿のもの
ですが、小沢さんの東京ものは編集に関わっていた「うえの」があったからこそでき
たのかもしれません。「うえの」は59年5月に創刊され、まもなく文学仲間が「うえの」
の編集長となったことで、お手伝いをするようになったとあります。
「サンパン」の「一代記」からの引用です。
「バックナンバーをみると、5号からぼくは『上野ルポルタージュ』と題して、池之端
仲通りとか、広小路とか町筋ごとの歴史と現在を連載してまう。翌年は『うえの名所
めぐり』を。それから『名作ダイジェスト下町の文学』を何回か。にわか仕込みの見聞
をしったかぶりにならべたてて、おくめんもなく書いたもんだ。おおかた軽薄な若書き
です。新しい雑誌だからやらせてもらえたんだね。聞き書きの代筆から、グラビア頁の
キャプション、埋め草、座談会のリライト、みんなわたしの一手引き受け、稿料もらい
ながらライターの実習をしていたわけ。幸運でした。」
 「大東京24時間散歩」に収録されている「うえの」掲載文章で一番古いのは60年6月
号の「彰義隊始末記」(改稿)とあります。
「さて、彰義隊は、上様の護衛こそ急務なりと上野の山にくりこんで、寒松院(いまの
動物園)に本部を置く、すると徳川直参や諸藩脱藩者の加入申し込みが殺到して、みる
みる数を増し、軽く千名を突破さいたから、池田大隅守を頭にして、青、黄、赤、
白、黒の五隊に編成する。
 折しも官軍は有栖川宮大総督を頂いて、トコトンヤレナと東海道を下ってくる。」