小沢信男著作 8

 小沢信男さんによる「犯罪ルポ」の流れは、昨日までの「犯罪専科」と、本日に書影を
掲載します「犯罪紳士録」に集約されます、
 「犯罪紳士録」の元版は、80年2月20日(この日は、くしくも当方の次男が生まれた
日でありました。)に刊行されました。版元は筑摩書房、編集担当は松田哲夫さんと
あります。

 昨日に文庫版「犯罪専科」のあとがきにかえての著者ノートが「今日の稗史として」
というタイトルであると記しましたが、小沢さんの「犯罪ルポ」は「稗史」を書くと
いう意識であったようです。
 「稗史」という言葉は、安い国語辞書にはのっていませんでした。「広辞苑」には、
次のようにあります。
「稗官が世間のうわさやこまかなことを歴史風に書いたもの。転じて小説。」
稗官とは、なんぞやで広辞苑で調べてみましたら、低い官職。小役人となります。
どこまでも立派なというところからは遠いことです。
 「犯罪紳士録」の「三面記事考 序にかえて」のでだしは、次のとおりです。
「『サァサァ皆さんお聞きなさい深い意趣遺恨のあるでもないに只お金を貸さぬばかりの
事で男を殺害したる前代未聞無頼飛切りともいうべき女の大罪人ができました。』
 大道香具師の呼び込みめくが、これがレッキとした新聞記事である。要点を抽出し、
誇張すべき点を誇張していて、キャッチ・フレーズとしての正統派と私は思う。
 右は高橋お伝捕縛の記事の書き出し。1876年9月12日付の東京曙新聞の雑報である。
 どうです、むかしの新聞のほうがよほど愛嬌があって、記事全文を読んでみたくは
なりませんか。」
 小沢信男さんは、63年頃に筑摩書房から刊行となったシリーズ「日本の百年」に
関わっていました。手元には小沢信男さんの関わったものが保存されていますが、これは
1964年の明治百年にあわせた出版でした。
たしか、最近に文庫で復刊されたはずです。

日本の百年〈2〉わき立つ民論 (ちくま学芸文庫)

日本の百年〈2〉わき立つ民論 (ちくま学芸文庫)

 この本の著者は松本三之介さんでありますが、松本さんの解説の最後には、「この巻
の編集・執筆は松本が担当した。なお執筆にあたっては小沢信男氏のご協力をえた。
厚く謝意を表したい。」
 この本の執筆を行っていたのは、62年〜63年頃のことですから、小沢さん30代の仕事
です。