小沢信男著作 9

「日本の百年」〈2〉わき立つ民論という本は 著者となる松本三之介さんが、解説の最後
には、「この巻の編集・執筆は松本が担当した。なお執筆にあたっては小沢信男氏のご
協力をえた。
 厚く謝意を表したい。」と記しているのですが、これは「ご協力」なんてものでは
なかったと聞いたことがありました。(「南陀楼綾繁」さんのブログにも、それへの言及
がちらっとありました。)
 第3巻の「強国をめざして」も同様であったように思えるのですが、確保してある本が、
みあたりませんので、本日はあとがきを確認することができません。チームで書いたも
のなどを、代表者が著者となって刊行するというのは、珍しいことではありませんし、
あちこちにある話でしょう。
 いずれにしても、松本先生の指示で、図書館へといって明治期の新聞を閲覧して、それ
から抜書きをして文章を仕立てていくという手法は、「稗史」によりそうということから
は、「犯罪ルポ」に大変近いものがあるように思います。
「たかが女こどものなぐさみと見られていた『稗史小説』の世界に、天下の志士たちが
クツワを並べて進出したのは、いうならば専制政府のおかげだった。政府が演説や新聞の
高尚なる言論を大いに弾圧したため、物いわねば腹ふくるる、民権家が、一時、小説と
いう『低級』な道具をかりて所懐をのべ、そのうちそれがおもしろくなって本腰をいれる
者もあって、ついに1885年以降の政治小説全盛時代がくるのである。」(「わきたつ民論」
の「自由民権」のくだりからの引用)
 これなどを眼にしますと、「わきたつ民論」の仕事を終えたあと、週刊誌に「犯罪ルポ」
を手がけるようになったのは、このときの勉強の成果発表でもあるようです。(戯曲「当
世記者気質」という作品も発表しています。)
 「犯罪紳士録」の序にありました「三面記事考」から脱線して、「日本の百年」に話が
及んでしまいましたが、この「日本の百年」で仕込んだ材料は、小沢さんの柱の一つと
なるのでした。