小沢信男さんの「んの字」のあとがきの書き出しは、次のようになります。
「ということになって恐縮です。まだ生きているけれど、もう死んでもおかしくない
ので『小沢信男全句集』。
そもそも少年叙情詩人でスタートして、青年時よりぽちぽち短編小説を書き出して、
中年から短編の犯罪ドキュメントなどをひとしきり書いたものの、五十代の終わりころ
からふいに俳句をひねりだした。やっぱりね、がんらい息のつづかぬやつだもの、十七
文字あたりが納まりどころか、と自分でも思わぬではなかったのですが。
それが七十の声を聞いてから、なぜか『渾身の書き下ろし評伝』なるものに着手して、
二年半がかりで七百枚。『裸の大将一代記 山下清の見た夢』(筑摩書房)がそれです。
どういう風の吹きまわしか。いやなに、山下清に託しておのれの来し方をかえりみた
までさと、なかば自得はしているものの、あんまり柄にないことをすると天罰できめん、
寿命にさわるぞ、という内心の声もきこえます。」
このあとがきを見ていて、「んの字」よりも「裸の大将一代記」のほうが先に刊行と
なっていたことに気づきました。
小沢作品で長いものといいましたら、「小説昭和十一年」がありますが、これは
「新日本文学」に十回連載したものでありまして、まさか小沢さんのポケットから書き
おろし七百枚の作品がでてくるとは思ってもみませんでした。
八十年代の中頃から「俳句」に打ち込んで「十七文字あたりが納まりどころか。」と
いいながら、長いものへの準備を重ねていたことになります。
- 作者: 小沢信男
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2000/03
- メディア: 単行本
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表紙絵は山下清自画像です。