小沢信男著作 204  裸の大将一代記

 小沢信男さんの「んの字」のあとがきの書き出しは、次のようになります。
「ということになって恐縮です。まだ生きているけれど、もう死んでもおかしくない
ので『小沢信男全句集』。
 そもそも少年叙情詩人でスタートして、青年時よりぽちぽち短編小説を書き出して、
中年から短編の犯罪ドキュメントなどをひとしきり書いたものの、五十代の終わりころ
からふいに俳句をひねりだした。やっぱりね、がんらい息のつづかぬやつだもの、十七
文字あたりが納まりどころか、と自分でも思わぬではなかったのですが。
 それが七十の声を聞いてから、なぜか『渾身の書き下ろし評伝』なるものに着手して、
二年半がかりで七百枚。『裸の大将一代記 山下清の見た夢』(筑摩書房)がそれです。
 どういう風の吹きまわしか。いやなに、山下清に託しておのれの来し方をかえりみた
までさと、なかば自得はしているものの、あんまり柄にないことをすると天罰できめん、
寿命にさわるぞ、という内心の声もきこえます。」
 このあとがきを見ていて、「んの字」よりも「裸の大将一代記」のほうが先に刊行と
なっていたことに気づきました。
小沢作品で長いものといいましたら、「小説昭和十一年」がありますが、これは
新日本文学」に十回連載したものでありまして、まさか小沢さんのポケットから書き
おろし七百枚の作品がでてくるとは思ってもみませんでした。
 八十年代の中頃から「俳句」に打ち込んで「十七文字あたりが納まりどころか。」と
いいながら、長いものへの準備を重ねていたことになります。

裸の大将一代記―山下清の見た夢

裸の大将一代記―山下清の見た夢

 2000年2月25日刊行 筑摩書房 担当編集者 松田哲夫 装丁 南伸坊
 表紙絵は山下清自画像です。