小沢信男著作 7

 小沢信男さんの犯罪ものは、時系列でいきますと「犯罪紳士録」というシリーズ
つながります。東邦出版社からでた最初の「犯罪専科」あとがきには、「また本書と
は別に、近代日本犯罪史的なアングルのもとに、私の犯罪ドキュメントの集大成を、
近々に、版元を代えて、もう一冊編むことにします。じつはこのほうが前々からの
プランだった。本書とはほとんど重複しないはず。」とありました。
 「近々に」とありましたとおりで、このあとがきから1年半後の80年2月に筑摩書房
から「犯罪紳士録」が行となりました。これについては、また次の機会として、まずは
文庫版の「犯罪専科」を話題としましょう。
 「犯罪専科」 河出文庫 85年4月4日
 小沢信男さんにとっては二冊目の文庫であります。

 この文庫帯には、推薦文が掲載されていて、筆者は鶴見俊輔さんでありますが、
それを引用しておきましょう。
「 小沢信男の『犯罪専科』は、コーリン・ウィルスンとパトリシア・ピットマン
共著の『殺人百科全書』とくらべて、はるかにきめこまかく、犯罪の細部に筆がおよ
んでいる。ここでもディテールに著者の眼がとどき、そのディテールを一個の犯罪の
現場からときはなって、私のそばにただようものにするという小沢独自のペンのはた
らきがある。
 私は、著者がこの系列の仕事をつづけて、小沢信男犯罪全集がいつか出版される
日を待っている。」

 この文庫に収録されている文章は、次のものとなります。
・ 差別  混血少年連続殺人事件
・ 設計  保険金殺人事件
・ 中産  外交官令嬢殺人事件
・ 非行  神田錦町娘心中
・ 無法  フーテン・マコの短い華麗な生涯
・ 美徳  未亡人のツバメ殺し
・ 誘拐  ”鬼夫婦”幼女殺し
・ 物慾  悪女の極付・日本閣事件
・ 企業  ドロボウ会社始末記
・ 決算  マダムと硫酸 古今妾考
・ 犯罪年表 1964〜1984・ 著者ノート 今日の稗史として

 この「著者ノート」は、犯罪ルポの舞台裏を伝える貴重な文章で、この数日にも
何回か引用させてもらいました。このノートには、取材先との写真もありますが、
「元説教強盗 妻木松吉氏」とのツーショット写真は、歴史に残る伝説の人物との
一枚でありますが、「説教強盗」さんでありますよ。
 犯罪年表には、1966・9・3のところに、「わが子(10)を車にぶつけって示談金を
詐取し、全国をまわっていた夫婦が大阪で逮捕」とあります。
これは、大島渚監督によって「少年」という作品になったものですが、中国では
紅衛兵が台頭してきた時期のことであるというのが、この年表をみるとわかります。