小沢信男著作 4

小沢信男さんの本の紹介を行っています。刊行順にやってきましたが、犯罪ルポが
続きましたので、引き続きで犯罪ものをまとめてみることにいたしましょう。
「サンパン」13号の「聞き書き 小沢信男一代記」11回目「犯罪ルポに打ちこん
だ頃」には、次のような話がでてきます。
「『犯罪の主役たち』を出したときに、真っ先にほめてくれたのが、鶴見俊輔さん
でした。『これは見どころがある、日本犯罪大全集を書くつもりでやりなさい』と
いうハガキをいただいた。こどもみたいなへた字でねえ(笑)。
 嬉しかったですよ。だって、新日本文学の連中なんかには、評判わるかったん
だから。『あいつはこのごろ犯罪ものなんぞで稼いでいやがる』なんて陰に陽に
いわれた。おおかた読みもしないで。こっちも若いから、ナニクソって気張って
書いている。だから、初期のものには硬くて未熟なところが、それはありますよ。」
 鶴見俊輔さんと小沢信男さんは、年齢差は5歳ですが、鶴見さんは20代で世にでて
いますので、年齢差以上のキャリアの違いであります。「新日本文学」に身をおき
ながら、「思想の科学」でも勉強を続けていました。
「結局、ぼくのルポは『傍観者の見聞録』なんです。・・新日本文学では、嫌がられ
る態度だね。イデオロギーをしっかり確立するのがいいことなんだから。こんなやつ
をどうしてちやほやするんだと石田郁夫には言われるし。あそこでは、ぼくは補欠
みたいなものでしたね。『思想の科学』のほうが居心地よさそうだとは、すぐ感じた。
でも、居心地のわるい新日本文学にいようときめて、半世紀通しちゃった。これが
ぼくのイデオロギー。」
 このあたりの小沢さんのポリティークは、高等戦術でありまして、なかなかまね
できるものではありませんが。新日本文学会なんて、ほんとうに面倒そうな人たちが
たくさんいて、そのうえに党派の争いなんかもあったはずですから、こういうところ
に半世紀もいたというのは、人生の達人といってもよろしいでしょう。
 会社などの組織で上司の派閥に組み込まれそうになって、おろおろとしている
中間管理職の方々は、小沢信男さんの生き方に学んではいかがかな。
 一部で評判となった三一新書の二冊に続いて、犯罪ルポが刊行されたのは、
78年のことでした。