小沢信男著作 3

「犯罪の主役たち」に続いて刊行されたのは「悪女」となります。
昨日に引用した小沢信男さんの文によれば「犯罪ドキュメントを、ご注文によって
私は書き続けました。隔月に、三年間。それらが七、八編ほどたまるそばから、
三一書房三一新書に編んでくれました。」となります。
「サンパン」に連載されていた「聞き書き 小沢信男一代記」(聞き手南陀楼綾繁
11回目まで続いるのですが、この11回目に「犯罪ルポに打ち込んだ頃」という項があります。
「当時、ルポの類はランクが低かった。『月刊タウン』では目次に名前がのらず、
記事の最後に小さくのった。要は読み物で、作品という意識が薄かったのね。
『問題小説』では名前がのるようになったけど。原稿料からして安い。取材費が
かかるしね。年輩の小説家から忠告的に『小説のほうがいいよ、お金になるよ』
なんていわれた。・・・
 それでもね、こうして辿りなおしてみると、四十歳前後のころは、わがことと
は信じられないほど、ぼくは働きまくっているんです。あのころは、毎月の仕事
を三つに分けていました。犯罪ものと、新日本文学と、『うえの』と。かっちり
分けられることじゃなくても、そうしておけば、何とかなるだろう。実情はそう
もいかなくて・・・」
 「悪女」 1970年6月30日刊行 三一書房 カバー装画 梶鮎太


 裏表紙にある著者の写真は、昨日に掲載した前著の写真とくらべると別人のよう
であります。
 それはさて、「悪女」のまえがきから引用します。
「本書は、八つの出来事のドキュメントです。
 この八つの出来事は、いずれも女性が主役であり、
そのおおかたが殺人事件です。彼女らは事件当時、新聞や雑誌などにかなり
けばけばしくあつかわれました。
曰く”鬼のような女”曰く”稀代の悪妻”・・けだし一世の耳目をそばだたしめ
る悪女たちの目白押し、という按配で、さしずめ本書は当世悪女伝ベスト8とい
うことになりましょうか。
 だが、それほど彼女らは有名だろうか。むしろ忽ち忘れられ、読者各位のご記
憶にもさだかでないというのが、およそ実態ではあるまいか。事件は、どれも
ここ三、四年の出来事で、まだ裁判継続中のものもあるというのに。
 これがマス・コミ商品としての話題の通例でしょう。誇大表現と消費迅速」
 八つのドキュメントは、いずれも「アサヒ芸能・問題小説」に連載されたもの
です。
・ 外交官令嬢焼殺事件 68年10月号
・ 荒さん未亡人狂死事件 68年12月号
・ 山荘マダム情夫刺殺事件 69年2月号
・ 亭主暗殺未遂事件 69年4月号
・ 未亡人のツバメ殺し 69年6月号
・ ハイミスの嬰児殺し 69年8月号
・ 課長補佐夫人の姑殺し 69年12月号
・ ”鬼夫婦”幼女殺し 70年2月号

 本となった時点で、3、4年前の出来事とありますので、書かれた時によく知ら
れた事件であったのでしょうが、小沢信男さんも嘆かれるように「悪女」という
には、いささかスケールが小さく、「『悪女』というのはもっと値打ちのあるも
のです。」とまえがきにありました。