ブロンテ 実生活の視点 8

 教養というか、たしなみとしてのお針仕事というのは中流階級の女性にも必要で
あったのでしょうが、これで生活を支えるというのは、中流の女性の役割ではあり
ません。
 「ブロンテと芸術」には、ブロンテとレースについての論文が収録されています。
これにはシャーロット・ブロンテは、子供ころから刺繍やキルト制作を行っていたと
あります。ブロンテ博物館へといきますと、「ブロンテ姉妹の創作した作品が大切に
保管」されているのであります。この展示されている針箱のひとつには、「リボンや
編み物用糸と一緒に小さな木の葉型の道具」が残されているのだそうです。
 この道具は、「シャトルといってタティングレース用の針」の役目をするもので
あるということから、「ブロンテとレース」についての考察が始まります。
タティングレース」というのを、シャーロット・ブロンテブリュッセル留学中に
ならい覚えたにちがいないと著者(佐藤郁子さん)は書いています。
「 老若男女を問わず、貴族をはじめとする上流社会の人々は、教会に通う時には、
必ずレースを身につける習慣があった。レースのヴェールを被ることで礼節を守り、
レースをささげることで天国への導きを願ったともいわれている。ヨーロッパレース
の歴史は古く、様々なレースが考案されてきたが、その中でも上流社会の貴婦人たち
に好まれたのがタティングレースなのである。」
 「ヨーロッパ大陸の貴婦人たちがタティングレースを教養としてたしなんだことは、
絵画や肖像画の中に描かれていることからも裏付けられる」とありますが、この
レース制作という行為は、自らを飾るためのものではなく、信仰の証となることに
より、この作業が仕事ではなく、たしなみとなったものでしょう。