「情けない」詩人 2

 井川博年さんの書いたものというと、辻征夫さんの「私の現代詩入門」の解説しか
手元では確認出来ていないのですが、その書き出しはつぎのようになります。
「この世には、詩と詩人が死ぬほど好きで、毎日でもそのことを考えていたい。一生
を詩を読み、詩を書くことに費やしても、悔いはない、と考える人間が、数少ないが
(砂の中の金よりも少ないが)存在する。辻征夫がそういう人間であった。」
 井川さんも、「そういう人間」であったのでしょう。
 詩人にはいろいろなタイプの人がいますが、朝日新聞の記事の見出しでは井川さんは、
「情けない詩人」ということになっています。情けない詩人というレッテルは、あまり
名誉なものではないですね。世の中には「桂冠詩人」とか「学者詩人」なんてのが
あるのですから、それからはずいぶんと遠いことです。
 井川さんの詩作品には、「われわれはみなマイナー・ポエットである」というのが
あって、そのなかには、「講演などするなかれ」「大学で詩など教えるなかれ」という
くだりがあるのだそうです。日本の代表的な詩人で大学で教えることなく、詩だけで
生活ができている人はほとんどなく、なんらかの仕事を別にして生活をしているので
しょうが、その仕事も弁護士とか医師とかいう立派なものではなく、普通の人と同じ
ようにありふれた仕事というのが、井川さんの基本的な立ち位置であるようです。
「情けない」というのは、偉そうでないことの別の表現であるのかもしれません。
「情けない」詩人の対極にあるのは、「偉そうな」詩人でしょうか。