小沢信男著作 184

 昨日、引用した小沢さんの文章には「日本の首都東京は、東から西へ重心を移して
発展してきた」とありました。この東から西へと重心を移して発展という過程におい
て、街壊しがおこっていたといえましょう。
 小沢さんは街壊しとなっていないところを探して、谷中のお寺が建ち並びすぐ隣が
墓所となる一角を見つけ出し、迷路のような路地で育った向島出身の辻征夫さんと
出会います。
 小沢さんは辻征夫さんとの出会いと別れを、辻さんの遺作句集である「貨物船句集」
(書肆山田刊)の巻末に寄せています。(この文章は「本の立ち話」で読むことが
できます。)
 辻征夫さんからみた小沢さんは、「ゴーシュの肖像」(書肆山田刊)に「昨日の魚」
と題された小沢さんのミニ句集「昨日少年」評とか、「幻の蕪山村」という自らの俳号
について記した文章などに描かれています。
 辻さんの「幻の蕪山村」の一節には、次のようにあります。
「私が小沢さんと出会ったのは、おそらくこのときである。若年の日に、肺結核による
療養生活をしたことのある銀座生まれのこの人に、私は急激に惹かれて行き、やがて
連句のてほどきを受けることになった。なんとか数回やってみて、どうもむずかしすぎ
ると思い定めると、こんどは友だちと語らって、次からは普通の句会にしてくださいと
お願いした。これが私たちの句会のはじまりで、もうかれこれ三年は続いていると
思う。」
 辻さんは、小沢さんに惹かれて、俳句の手ほどきを受け、小沢さんは「純度の高い
詩人」である辻さんから刺激を受けることになりました。