本とコンピュータ 4

本とコンピュータ」ということで、もともとは、97年夏から刊行された季刊
本とコンピュータ」を話題にしようと思っていましたが、なかなか本題に入る
ことができません。
 家の中の本を少なくするとか、本を軽くするということでうろうろとしています。
先日に引用した植草甚一さんの文章「どうやって整理したらいいのやら」は、河出
書房からでていた人生読本「読書術」に掲載されていたものですが、この号には、
興味深い文章が満載であります。
 植草さんの文章の次には「読書術あれこれ」と題された篠田一士さんのエッセイが
おかれていますが、この文章で紹介したいのは、詩人安東次男さんについての挿話で
あります。
「手元にある本を全部売っぱらってしまったら、どんなにせいせいするだろうと思う
ことがよくある。旧制高校の学生の頃から、そういうFURORが身内を駆けめぐるたび
に、いざ実行しようとしても、これだけは残しておきたい。あれだけはいますぐ読む
のだからという、もっともらしい未練がおこって、なかなかキレイさっぱりとはゆか
ないのが口惜しい。・・・
 身辺の本整理ということで、みごとなのは安東次男さんである。安東さんが詩人で
あることはあらためて念を押すまでもないが、エリュアールからはじまって、現在の
芭蕉にいたる卓抜な批評の業績をふりかえれば、このひとがどのくらい本に苦労して
いるか、思い半ばにすぎる。
 安東さんのところに出入りする古本屋さんがぼくのところへも来ていて、・・
なんかのきっかけで安東さんのことが話題になったとき、『それにしても安東先生は
すごいですね。あの方が本をお出しになるときには、気魄がみなぎっていて、買う方
がこわくなります』と感に堪えたように小首をかしげて、うなずいていた。」
 安東さんの流儀は、「本を整理するときは、一番たいせつなものから手放す」という
ことだそうです。「すっかり手放すことで、もう一度初心にかえろうという狂気。」
を実践する。これはとうてい常人にはできるはなしではありません。