晶文社図書目録7

植草スクラップブック

 晶文社サブカルチュア路線の代表といえば、なんといっても
植草甚一さんということになるでしょう。植草さんの本を、最初に
刊行したのは晶文社であって70年の図書目録には、最初の本
「ジャズの前衛と黒人たち」が掲載されています。この本の目録での
紹介文章は、次のようになっています。
「 ジャズの十月革命を微視的に追求する必読の好著。ジャズの魂を
探り、黒人の怒りと悲しみを探り、爆発するアメリカの表情を探り、批評の
陰影を探り、ブルースの国に生きる『もう一つのアメリカ』を自在に動き
まわって、現代のジャズ・パロキシズムを問う植草氏の快作。本格派の魅力を
充溢させ文体をもって、単にジャズのみならず、広く芸術・思想・政治の分野に
までしたたかな視点をとどろかせる。」
 「ジャズの前衛と黒人たち」は67年刊行ですから、反乱の時代前夜であり
ます。この目録の文書はいつかかれたものかわかりませんが、70年という
時代のことを考えると「ジャズの十月革命」とか「もう一つのアメリカ」と
言葉も、当時は違和感がなかったのでありましょう。
 フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』をみますと、ジャズに
ついての文章は、スイング・ジャーナル誌に寄稿したものでありますが、その
時代のスイング・ジャーナル誌をちらちらと見ておりましたが、高価な
レコードを購入するためには参考にならない文章ですし、レコードレビューを
書かないジャズ評論家というのは、ほとんど問題にもならないと思っており
ました。
 このあと70年前後からは中村とうよう編集長の「ニューミュージック
マガジン」にもコラムをのっけるようになりましたが、これも不思議なイラスト
が印象に残るものでした。
 それだけに、76年に晶文社から「植草甚一スクラップ・ブック」の刊行が
始まったことには驚きました。これは雑誌「ワンダーランド」の編集などを
通じて若い人たちの心をつかんだからでありましょう。
 こちらは、最初に目にした文章等が難しかったからでありましょうか、
晶文社からの植草さんシリーズとも、ほとんど縁がなく過ぎてしまいました。
ずっとあとになってから「ぼくは散歩と雑学が好き」を購入しておくればせで
すこし読みましたが、これのあとがきには、「このまえの『ジャズの前衛と
黒人たち』とおなじように小野二郎さんにすっかりお世話になった。」とあり
ました。