今年の文化功労者の授賞式であいさつをしたのは、詩人の中村稔さんであったとの
ことです。一番年長であるからなのでしょうか。弁護士でもありますが、残念なこと
に中村稔さんの詩を読まれた人なんてほとんどいないのではないでしょうか。当方も
詩集は何冊か手にしたことがあるくらいです。
詩よりも多くの読者を獲得したのは、自伝である「私の昭和史」によってでありま
しょう。弁護士という業務をこなしながら、著作集にまとめられるような多彩な文学
活動を行うのですから、とんでもなく才人であります。
ここでは、中村稔さんの代表的な詩集である「羽虫の飛ぶ風景」(青土社 1976
(昭和51)年刊)に収録されている「早春感傷」を紹介します。
早春の肌さむい光のなかに
樟に木末を見上げれば
椋鳥が日のほの当る葉の茂みにむらがって
日陰になった葉だけが騒いでいる。
私が死者を葬った夜は
沫雪が暗い天から小止みなくふった、
雪は雫となって皮膚にふれ
屋根にふれ土にふれ消えた。
とぼしい灯もまたたく沫雪ほどに
暗い天から小止みなくふりしきり
ふり落ちてやまない私たちの生の幻。
椋鳥が早春の空の一角をかすめるように
私の心を剪るかのように
飛び去ってー風はまだつめたい。
青土社の広告をみましたら、中村稔さんの詩集「立ち去る者」というのがでていました。
限定300部 豪華美装・たとう入り(限定番号・サイン入り) 2940円
*部数限定につき、小社より直接お送りいたします。(お問い合わせは小社までお願
いします。)