文化勲章のこと 10

 文化勲章の受賞はいつころに、ご本人たちに伝達されるのでしょうか。
受賞される男性の場合は、着用するものは紋付き羽織かモーニングと決まっていますの
で、まあ一ヶ月もあれば、着用するものを用意することができるでしょうが、大変なの
は女性たちでありますね。もちろん、衣装は自分持ちでありますので、そのために国から
補助がでるようなことはありません。
 今回の女性受賞者の方は、今回着用の着物は新調なさったのでありましょうか。また
奥様方はいかがでしょう。本当に物いりで大変です。
 文化勲章のことということで、永井龍男さんの文章を引用することからはじまりまし
たが、この最後も永井さんの文章の引用することにいたしましょう。永井さんが授賞式
に出席したときに感じたことを、「賜茶の席」という文章にして発表しているのです。
「 昨秋参内して私が経験した式次第は、陪席の総理大臣の顔が八年前(注 文化功労者
となった時)と変わっていただけであった。ここで申述べたいのは、夫妻同伴で出席せよ
という親しみある通知に接していながら、いざ授賞式となると、夫人達はわれらと離れ
て、控えの間から庭園に導かれ、式の済むまで園内を案内される。そんなふうだったよう
に憶えているが間違いはなかったかどうか。裾模様の紋付きに、帯を固く締めて参内した
のは、私の老妻ばかりではない。拝謁の時をいまかいまかと緊張して待っていた夫人達
が、体よく待ちぼうけの形になるのは、八年前も昨年も同様であった。陛下のお気持ち
に添うものではあるまい。もしやと思った翌四日の賜茶の卓も、陛下を囲む光栄に浴し
たのはわれわれ老骨ばかり目立った。十年一日の如しとは、こういう風景をいうのか。
 陛下の賜茶は、皇太子ご夫妻も御列席、味のよい国産ワインも添えられオウドゥブル
も美味であったら、古女房にも喜びをわかちたく思った。」
 永井龍男さんが文化勲章を受けたのは1982(昭和57)年のことですから、三十年ほど
も前の話です。それからずいぶんと時間がたっていますので、このあたりは改善されて
いると思うのでありますが、今年はどのように行われたのでありましょう。