古本屋のおやぢ

 いきなり引用からはじめます。
「 Sさんは東京・大森山王の古本屋のおやぢである。おやぢといっても、まだ四十代で
あらう。
 先日、古本市の帰りだと言って、ひょっこり訪ねてきた。私を訪ねて来るのは、これで
二度目だった。 
 最初は、去年の晩秋ごろであった。私の旧著を十冊ばかりかかへて来て、これに署名し
てくれと言った。長話をして、帰っていった。
 その後、某色紙展で私の色紙を買って、店に飾ってあると言って来た。郷里の信州伊那
地方へ旅行したをりには、名物のミソづけを送ってくれたりした。
 今度は、花束をたづさへて来た。」
 これは上林暁さんの「古本屋のおやぢ」という文章の一節です。もとは1962(昭和
37)年6月28日に寄稿したものだそうですが、上林暁全集第19巻に収まっています。
 「大森山王の古本屋のおやぢ」というのは、最近「昔日の客」が夏葉社から復刊した
関口良雄さんのことであります。


 夏葉社版「昔日の客」は、善行堂さんに注文して送っていただきました。ネット社会の
ありがたさであります。ご近所の書店に注文をだしますと、ずいぶんと時間がかかるので
ありますが、善行堂さんの通販ページを通して注文しますと、お店に届きました、予約の
お客に順次発送していますと状況の報告がありまして、数日前に手元に届きました。
 この本は、もったいなくてなかなか読むことができずであります。とはいいながら、
いくつかの文章を読んでおります。
 これに収録されている「上林暁先生訪問記」は1963(昭和38)年3月に発表されたも
のですが、ちょうどこの月に関口さんは「上林暁文学書目」を自費刊行されたとあり
ます。
 文章の書き出しは、「私が初めて上林先生をお訪ねしたのは昭和36年11月3日文化
の日だった。」であります。
 上林暁さんが、このときのことを書いているのが冒頭で引用した文章であります。
 善行堂主人が、上林暁さんの「ジョン・クレアの詩集」を再読しているというのは、
条件反射ともいうべき行動でありまして、人によっていろいろとありでしょうが、
関口良雄さんの本を手にして、当方も上林暁さんのものに手が伸びております。