シルバー・コロンビア

 当方が東京へといった1986年は、ちょうどバブル景気がいわれたころでありまして、
あちこちで地上げが活発に行われ、短期間のうちに土地の値段が高騰した時期でした。
 上場されたNTT株の初値が話題となって、借金してでもNTT株を購入すれば儲かると
いわれたものです。このあとも右肩上がりが続くと、多くの人がそうした気分で踊ら
されていたようです。
 当方はそうした時代の東京にいたのでありますが、ほとんどこうした世間からは
落ちこぼれ状態でありました。バブル景気はどこの話でありますかです。
 こうしたバブル時期に話題となったのが「シルバー・コロンビア計画」であります。
( http://ja.wikipedia.org/wiki/シルバーコロンビア計画 )
 定年退職後は物価の安くて住み良い「スペイン」などで生活しようというのが、
「シルバー・コロンビア計画」でありまして、これは老人の輸出だという批判が
ありました。
 この時代にスペインに暮して、その土地から日本国内にむけて文章を発表していた
のは堀田善衛さんでした。1977年に「ゴヤ」を発表したあとにスペインにわたり、
日本と往復しながら、10数年を過ごしたとのことです。
 岩波「図書」7月号を見ていましたら、作家の佐伯泰英さんの文章に、次のように
ありました。
「 第三次の文庫ブームは1971年から73年にかけてで、講談社文庫、中公文庫、
文春文庫が、のちの集英社文庫が参戦した。
 私はこの第三次文庫ブームの余波が作家を潤す光景を遠くスペインの地で垣間見た。
 当時、堀田善衛夫妻がグラナダのサクロモンテの丘の斜面のマンションに住んでいて、
写真家の私は運転手兼小間使いで居候していた。そこへ新しく参入した出版社が堀田
の旧作を文庫化するために競って編集者を送り込んでいた。そんな日々、堀田夫人が
レース編みをしながら、
『佐伯、作家という者はね、文庫化されてようやく一人前、生涯食いっぱぐれがない
ものなんだよ。』
としみじみ、そして誇らしげに呟かれた言葉を今も思いだす。」 
 この文章を見て、佐伯泰英さんというほとんど読んだこともない作家さんが、
かって写真家で、スペインに暮していたということを知りました。