文学全集と人事 13

 丸谷才一さん、鹿島茂さん、三浦雅士さんの三人による「文学全集を立ちあげる」
は、はじめから出版されることがないことを前提にした企画でありますから、文壇
人事のどろどろをほとんど感じることがありません。
 この「文学全集を立ちあげる」」での作品を採用する判断基準は、「いま読んで
面白いこと」でありますから、限られた時間のなかで、ばっさばっさと判断を下して
いく、昨年に話題となった「事業仕分け」と似たような印象を受けるかもしれません。
 たとえば、司会が「昭和の私小説系の作家をどうするか。滝井孝作、網野菊、藤枝
静男、・・川崎長太郎」と発言したのに対して、丸谷才一さんは「そのへんみんなや
めようよ。」と受けて、それをついで鹿島さんが、「上林暁とか川崎長太郎とか、
彼らはほんとに文章下手ですね。」というくだりなどです。
 これらの作家達が好きな人には許すことのできないものですが、まあ全集の内容
見本をつくる話しでありますので、見逃すこととしましょう。
 次のようにいってくれているのを見たらほっとする人もいるでしょう。
「 三浦  折口さんはどうしますか。
  丸谷  もちろん一巻。
  三浦  『死者の書』もいれますか?
  丸谷  入れなきゃいけないだろうな。だけど僕は『死者の書』はさっぱりわか
     らないんだ。
  鹿島  私もわからないんです。どこがいいの?
      何度読んでもだめだった。      
  三浦  『した した した』って、最初の出だしからして、気持ち悪いよね。
  鹿島  ああ、よかった。みんなわからないんだ。」

死者の書・口ぶえ (岩波文庫)

死者の書・口ぶえ (岩波文庫)