文学全集と人事 4

 先日に写真を掲載した「現代日本文學大系」の内容見本は資料価値がありと記し
ましたが、これには「文学全集の歴史」なんてのが1ページありました。
「日本の出版が企業として確立されたのは明治時代中期、その頃から『全集』と
いう名の継続出版物が現れだしたのであるが、それが名実ともに出版界・読書界の
寵児となったのは、大正末年から昭和初年、円本全集の出現をみてからである。」
 このような書き出しで、改造社からの「現代日本文学全集」(いわゆる円本)の
新聞広告が掲載となっているほか、戦前の代表的な全集がとりあげられています。
戦後のものとして、ここで取り上げられているのは、次のものです。
 「現代小説大系」 60巻  河出書房 49年〜52年
 「昭和文学全集」 60巻  角川書房 52年〜55年

「 昭和28年は、日本文学に限らず、世界文学全集、少年少女文学全集などもまじ
え、まさに全集に明け、全集に暮れた年であるが、この年刊行を開始した『現代
日本文学全集99巻 昭和28年8月〜昭和34年4月筑摩書房』は、この種のものの最大
集成となった。明治大正昭和三代にわたる体系的編集で、質・量ともに従来のもの
を優に凌ぐ出版として好評を博したのである。なお、この続編として『新選現代
日本文学全集 38巻 昭和33年』も刊行された。
 その後、現在に至るまで、文学全集の出版は相変わらず盛んで、まさしく昭和の
円本時代の観を呈しているが、次の主なものを刊行順にあげておこう。」とあります。  
 「日本文学全集」72巻 59年 新潮社
 「日本現代文学全集」108巻 60年 講談社
 「現代文学大系」63巻 63年 筑摩書房
 「日本の文学」80巻 64年 中央公論社
 「現代日本文学館」43巻 66年 文芸春秋社
 「日本文学全集」88巻 66年 集英社
 「日本文学全集」41巻 67年 河出書房
  
  このタイトルを見て、本の装幀とか雰囲気が判る人は、古本通であるか、
当方と同じような世代の方でありましょう。ほとんど、これらの端本も持っては
いないのですが、これのついての売りは、つぎのようなことであったようです。
「 文春版は小林秀雄単独編集、中公版は挿絵入り、河出版はカラー版という
 初の試みを打ち出してともに世評を賑わした。」
 文学全集の編集は、文壇人事のようなものであるということからは、小林秀雄
の単独編集というのは、文句をいわせないぞという姿勢がありありです。
 ここにある新潮社「日本文学全集」は「編集者の仕事」柴田光滋さんが担当し
たものではなしで、あの小さな版型のものですね。
 上にかかげた文学全集は、ブックオフのような店にあれば、ほとんど百五円く
らいで売られているのではないかと思います。文学全集というのは、読まれる
ことがなくて、飾られるものであったようで、飾る場所がなくなると、いきなり
捨てられるようなものなのでしょうか。