朝日ジャーナル 82 2

 昨日に表紙を掲げた「朝日ジャーナル」82年3月25日 臨時増刊は、ブックガイド82
というタイトルで「ペーパーバックの世界」という特集です。
 これには、「私が買った本」というコーナーがあるのですが、ここには、いまでは亡
くなってしまった人がたくさん登場します。先日に「ブルータス30周年」を話題にした
時も、いまから30年前には、このような作家達が健在であったということを高橋源一郎
さんが書いていると記しましたが、「買った本」のリストを公開している著名人には、
次のような人がいるのでした。
 向坂逸郎 この時の肩書きは「社会党顧問」となっています。5冊の本をあげていま
すが、コメントは、ほとんど次の一冊に関してのものであります。
「『ヒトラー1932〜34』 四宮恭二 日本放送出版協会
  またヒトラーについて勉強しなければならなくなったことは遺憾です。私は
 ヒトラーが最初に反乱をミュンヘンで起こしたとき、ドイツに留学しておりました。
 その時、私はあれほど世界中の国民に不幸をもたらすとは思わなかったのです。
当時はドイツの新聞もそう思わなかったのです。」
 向坂逸郎の前に登場するのは、ジャイアント馬場さんですが、この方はプロレスラー
ですが、会社経営者で、読書家としても知る人ぞ知る存在です。馬場さんのコメントは、
次のものです。
「 本に親しむ習慣は高校時代からあり、巨人軍のころにもヒマつぶしは読書だった。
 自分では読書家だと思ってはいないが、昨春、ある本屋サンのポスターにでたこと
 から読書家であるということにされてしまった。ただ、私は酒を飲まないから、
 試合後は葉巻をくゆらせコーヒーをすすりながら本のページをめくる。ときには
 睡眠薬がわりでもあるし、おもしろければ一気に朝まで読んでしまうこともある。」
 馬場さんは、さらっと書いていますが、トレーニングと試合と会社経営をするという
日々のなかでの読書でありまして、このように本を読む時間を確保するのがどのくらい
大変であるかというのは、この文を最初に目にした時には、思いもよらずでした。
( 馬場さんがあげている本は、次のものです。
ゼロ・サム社会」「古今和歌集・王朝秀歌選」「太平洋のフェアウェイ」「花神
蒲田行進曲」)
 亡くなった人の三人目は、手塚治虫さんであります。
 あげているのは、次の5冊
 ・ 「今江祥智の本」     全22巻  理論社
 ・ 「山藤章二のブラックアングル」   朝日新聞社
 ・ 「ヘンゼルとグレーテル」 大友克洋 CBSソニー
 ・ 「加藤直之画集」          朝日ソノラマ
 ・ 「うるわしのひめみこ」  小島功  双葉社  
 本日の朝日新聞夕刊には、手塚治虫が創刊した雑誌「COM」がとりあげられています
が、このようなリストを見ても、手塚のプロデューサーとしての幅広い目配りを感じる
ことです。
 手塚さんがコメントをよせているのは、「今江祥智の本」に限ってのことでした。
手塚と今江の接点というのは、意外や意外です。
「 一人の児童文学者の全作品が、見事な編集と豪華な装幀でつつがなく完結したこと
について、まず出版社の努力を称賛したい。
 今江祥智は1960年代に戦後派組として登場したすぐれた児童文学者群の中で、きわめ
てユニークな存在である。なぜならば、彼はまず童話や児童文学の挿絵について独自の
見識をもち、活字と絵の融合、調和に数々の実験を進めてきた。この全集には多くの
知人たちの協力のもとに、書きおろし作品も含めて、今江イズムが絢爛とちりばめられ
ている。完結を機に、著者の人生後半にかけて大きな飛躍を期待したい。方向は、案外
大人向き文学の世界にあるのではないかと思えたりする。」
 今江さんの「幸福の擁護」(みすず書房刊)には、「私がこの『漫画の神様』と初め
て会ったのは、名古屋で中学教師をしていたときだから、もうかれこれ40年近くも前の
ことになる。」
とありました。これは1950年代の半ばの頃のことのようです。今江さんから見た手塚
さんでありますが、「心遣いのまことにこまやかな方だった。こちらの全集完結の
パーティーなどにも時間を盗むようにして出てくださり、配られた小枡にサインを求め
られると一人一人何がいいか訊いて描いてくださった。」
 なるほど、このようなおつきあいがあったのですが。