今年のことなど 5

 阪田寛夫全詩集のことを話題とするつもりでいたのですが、その編集者である伊藤英治
さんのことに話がいっています。
 出版社で編集者としてスタートして、そこを退職してから編集プロダクションを作った
り、参加するというのは、ままある話です。河出書房を退職した藤田三男さんも、そうし
たなかで、ウェッジ文庫の編集を担当していました。こうした方々は、出版社にいる時
から有名でありました。
 編集プロダクションにいて仕事ができるということで、出版社に採用されるなんてこと
もあったでしょう。伊藤英治さんは、そのどちらでもなく、編集プロダクション一筋であ
ります。
 関係の深かった今江祥智さんの文章を昨日に引用していますが、まったく次のくだりは
そのとおりであります。
「本来ならば児童図書出版社自身が頑張って担ぎあげ、いや、つくってこなければなら
なかった重荷を、伊藤さんは気張って肩代わりしてきた。
フリーの編集者や編集プロダクションの数は多いが、どれほどが、ナルホドと頷ける実績
をあげたかどうか。だから、伊藤さんの恒人社が果たしてきた役割を評価し書きとめて
おきたくなるのである」
 伊藤さんが早くに亡くなったのは、こうした無理がたたったのでありましょうか。
今江さんの昨日引用の文章にあった「現代童話 五巻」というのは、ひょっとしてあれだ
ろうかと思って、シリーズとなっている文庫をいれている棚にある福武文庫を取り出して
みました。

現代童話〈1〉 (福武文庫―JOYシリーズ)

現代童話〈1〉 (福武文庫―JOYシリーズ)

 今はなき福武文庫です。1991年のものですが、手にはとっても読むこともなく積まれ
ていたものです。20年もたってから、話題にするとは思いませんでした。
(昨日に届いた岩波「図書」一月号の丸谷才一さんのエッセイにも、「それにツンドクの
功徳といふものもある。書棚を見わたしてゐて、おや、こんな本があると抜き出してみる
とおもしろいし、はからずも、いま必要な情報や知識に出くはすことがある。そのとき、
これだから本をたくさん買ふことは必要なのだと自分に言ひ聞かせる嬉しさは、皆さん
よく御存じでせう。」とありました。)
 91年の福武文庫には、伊藤英治さんの影は見あたらずです。ただ奧付にひっそりと編
集協力 恒人社とあるだけでした。福武に人がいたとは思えませんので(それこそ、
福武の文芸担当編集部は、他社からの移籍組だったと思います。)、編者と恒人社
(とりもなおさず伊藤英治さん)が打ち合わせをして編集をすすめていったのでしょう。