井上ひさし追悼 2

 井上ひさしさんが亡くなったことを伝える記事の大きさを見てみたら、その新聞社の
スタンスがわかりそうであります。井上さんのことを「サンケイ」がどのように報道
しているのか気になるところではありますが、これは見るにいたっておりません。
 井上ひさしさんは、護憲、平和についての活動を晩年に熱心にやっていたのは承知
しておりますが、もちろん本業は文学者でありますからして、そのことについてきちん
とふれている文章をみますと、ほっとしたりします。
 朝日新聞はかっての記者(いまは演劇評論家)、扇田昭彦さんが、追悼文を記して
いました。これに附して、関係者の声というのが6人寄せているのですが、このなか
で「平和と憲法を守る戦後民主主義の希望の星でもありました。」と記しているのは、
作家の五木寛之さんでありまして、新聞の文化面でありますからして、このくらいで
よろしいのでしょう。
 扇田さんは、ずっと井上芝居を見続けている人ですからして、その追悼文は素直に
読むことができたように思います。
「 喜劇とは複眼の思考である。描く対象を喜劇化すると同時に、自分自身も相対化
 する。
  だから深刻な問題を使う場合でも、氏の表現にはいつも笑いの感覚があり、それが
 私たちをくつろがせた。ただし、氏の笑いの底には不条理な現実に対する黒い怒りが
 潜んでいたように思われる。
  社会批判性が強い作品を書いた点で、井上氏は新劇を継承する劇作家の一人だった
 と言える。ただし、初期作品に目立った氏の過剰で破天荒な言語遊戯、複雑で奇抜な
 劇構造などは従来の新劇からは大きく外れていて、むしろ実験的な小劇場演劇に近い
 ものを私は感じていた。」(「井上ひさしさんを悼む」朝日新聞朝刊10年4月13日)

 追悼文のちょうどなかほどを引用したのですが、これにつけられた大見出しは、
「笑いの底 不条理への怒り」となります。たしかに言葉を落としていけば、この
ようなことになるのですが、「黒い怒り」でありますからして、もうすこし含みが
あってもいいように思うのでした。 
 ともあれ、井上ひさしさんにはずいぶんと楽しませてもらい、学ぶところも多かった
ことです。こうありたいと思うところと、こうはなりたくないということでいくと、
晩年には、こうなりたくないと思うことが多くみられたようで、そのことがちょっと
残念でありました。
 井上ひさしさんの作品で小生の偏愛するもの。
 ・ 「 きらめく星座 」 「すまけい」と「藤木孝」がでていた時代
 ・ 「 新釈遠野物語 」 新潮社からの すまけいの朗読ものがベスト
 ・ 「 本の枕草子  」 
 ほかにもまだまだあるように思えるのですが、あえて本日は、この三冊で勝負です。