中井正一全集第4巻の書影は、以下のものとなります。
初回配本の定価は580円でありましたが、この第4巻の定価は2400円でした。
81年頃に2400円というのは、けっこう値段が高かったのですが、売れそうもない
ものでありましたし、まあ完結にこぎつけただけよろしいということでしょうか。
この全集は、杉浦康平さんのデザインとなりますので、目で見る限りは統一感が
あるのですが、初期の二冊とあとに刊行された二冊は、微妙に素材が違うように
思えます。特には「艶消しの黒い表紙」というのが、最初の第3巻は紙質が違い
まして、これが杉浦さんの指定のものなのでしょう。これが第二回配本のもの
からは、普通の黒い紙のような肌触りとなったのは、コストがあわなくなったから
でしょうか。後にでた二冊は、奥付けに本文印刷は「三和印刷株」とあるのですが、
「Printed in Korea」となっているのはどういうことでしょう。
せっかく「中井正一」の本を手にしたですから、これの内容を紹介しない手は
ありません。中井正一は美学者ですが、戦後に国会図書館の副館長となって、
図書館法などの成立に尽力されました。図書館づくりに理想を燃やしたのですが、
そうしたなかで、綴られた文章です。
「 私たちが本をあつめ、その整理をし、それが、何人の求めにも応じて、とり
出せるように準備することは、すなわち図書館の活動は、その文字をつらぬいて、
文字の始源である生活の『文』、すなわち形を行動をもって捉え、より高い形
にまで、それを高めることを本質とするのではあるまいか。
私たちは書架に並ぶ本を見ているとき、その文字の背後に、無限に発展し、
乗り越えてきた『形』の集積、今、まさに乗り越えようとして前のめっている、
崩れたら、形成しなおそうとしている成長のいきている形の展望を感ぜずには
いられない。
図書館の中に生きることは、この『形』の発展の形成を、生き身をもって生きる
ことにほかならない。」
敗戦の焼け跡から「図書館」運動を通じて、良き日本をつくろうとした美学者の
熱い思いに美術出版社も杉浦康平さんも反応したのですね。