杉浦康平のデザイン5

 杉浦康平さんのデザインは、装幀というにとどまらず、中身にも踏み込むような
ものであります。これは写真集の仕事などで獲得した方法のようです。
 臼田さんの書くところによると、次のようになります。
「写真集のデザインで杉浦が試みた書物をトータルに見渡す眼差しは、表紙やカバー
といった外回りだけにとどまる『装幀』とは異なるアプローチである。たとえば文章
中心の一般書であれば、書物の核となるテキスト部分、つまり本文を起点として外回り
に及ぶデザインの実践となるだろう。杉浦はこうしたトータル・コンセプトに基づく
ブックデザイン(自身は『造本』と記すことが多い)にきわめて自覚的であり、
意識的であった。それまでは本文の文字組は出版社の<聖域>である、出版社内で
つちかわれたノウハウが適用されるか、担当編集者自身の独自の工夫によるもので
あることが大半であったが、杉浦らの新世代は出版社のサンクチュアリーにも果敢に
踏み込んでいくことになる。」
 当時は、まだ外部のデザイナーに装幀を依頼する時代ではありませんでした。社内で
編集者が装幀もやるか、社内装幀というのが普通でありました。こうしたところに、
杉浦さんが斬り込んでくるのですから、そうとうな反発があったでしょう。
 杉浦さんが71年に残している談話です。
「マスプロからは、どうしても個性が失われていく。コストを上げないで、よい
デザインをするためには、出版社とデザイナーの協力が必要なのだが、マスプロだと、
そのプロセスが欠落する。そこで中小出版社に希望をつなぐほかないわけで、築地
書館や思潮社は印刷所と緊密な関係をもっているから、造本にも本の内容が要請する
造本の必然性を認識してもらいたいですね。」
 築地書館という小さな出版社と組んだ杉浦さんは「雲根志」と「日本産魚類脳図譜」
の造本によって、二年連続で「造本装幀コンクール」で文部大臣賞に輝きます。
築地書館からの二冊は、杉浦さんの造本の代表的な作品ですが、なにせ一般的なもの
ではありませんので、いまに至るまで手にする機会はなしであります。
 当方にとってなじみがあるのは、70年代の河出書房との仕事でありました。