国語の教科書21

 筑摩「現代国語」教科書3年は、ほんとよくできていると思います。
昨日の丸山真男の文章には、「多少ともノイローゼ症状を呈していることは、すでに
明治末年に漱石が鋭く見抜いているところです。」とありますが、この文章も3年
教科書には採用されています。「現代日本の開化」という有名な講演ですが、これは、
1911年8月15日に和歌山市で行われたものだそうです。漱石のこの講演から100年
となるのですね。
「 現代日本の開化は、皮相、上すべりの開化であるということに帰着するのである。
むろん、一から十まで、何から何までとは言わない。複雑な問題に対してそう過激の
ことばは慎まなければ悪いが、われわれの開化の一部分あるいは大部分は、いくら
うぬぼれてみても上すべりと評するよりいたしかたがない。・・・・
 われわれの開化が機械的に変化を余儀なくされるために、ただ上皮をすべって行き、
またすべるまいと思ってふんばるために神経衰弱になるとすれば、どうも日本人は
きのどくと言わんか憐れと言わんか、まことに言語道断の窮状に陥ったものであり
ます。」
 夏目漱石は、普通に生きていけば神経衰弱になるのではないかといっているように
思います。みずからがそうであったからかもしれません。漱石が生きた時代から
百年もたっているのですが、いまでもまともであろうとしたら、神経衰弱に陥る
可能性がたかくなりそうです。職にありつけない人の多いこと、自死するひとの
多いこと、精神を病む人の多いことでありますが、これは社会が病んでいるのでは
なく、落ちこぼれるほうが悪くて、それも自己責任だといわれると、「現代日本
開化」とはなんであったのかと思いたくなります。