これから読む本3

 佐藤正午さんのエッセイ集については、光文社文庫のなかにうまく場所を見出し
たという感じでありまして、元の形を知らない当方は、これはオリジナル文庫だと
聞かされてもそうなのか信じてしまうくらいなのでした。
 もちろん、これに先だつ単行本があるのですが、それに寄せた著者あとがきには、
次のようにあります。

ありのすさび

ありのすさび

「 順番としては実はこれが二冊目のエッセイ集になるのだが、最初のがでたのは
前世紀(1989年春)のことで、感覚的に言えばもう百万年くらい昔の話だし、なん
なら今度のこれを佐藤正午の第一エッセイ集と呼ぶことにしてもかまわない。
書誌学的に正確を尊ぶ立場から、二を一と言いくるめることに反対する人がいても
それはそれでかまわない。いずれにしろ百万年の時が流れたのだ。そのあいだに
雑誌・新聞等に発表した小説以外の文章は、四百字詰め原稿用紙で一千枚を優に
超える。書いた本人がだいたいの見当でいうのではなくて、それらを全部、一枚
残らずに読んでくれた岩波書店の坂本君がはじきだした数字なのでまちがいないと
思う。その一千枚超の原稿をもとにこの本は編まれた。」
 岩波書店の「図書」はずっととっていますし、一時期は佐藤正午さんが連載をもって
いて、それが岩波新書ででていたのも知っておりましたが、このようなエッセイ集が
何冊も岩波からでていたとはまったく知りませんでした。
 この光文社文庫版「ありのすさび」の解説は、その編集者である坂本政謙さんが
書いています。
「まず、この本の成り立ちについてお話したいと思います。
 僕が佐藤正午さんとはじめて仕事をさせていただいたのは、2000年5月に刊行
された『きみは誤解している』に遡ります。この短篇集は、全篇が競輪という特殊な
世界に材をとったものであるにもかかわらず、また競輪やギャンブルといったものが
もっともそぐわないだろうと思われる版元から刊行されたにもかかわらず、いくつか
の好意的な書評とともに多くの読者にも迎えられ、予想よりもはやく重版の機会に
恵まれることになりました。」
 岩波書店の企画会議がどのような雰囲気であるのかわかりませんが、その場で
佐藤正午さんの「ギャンブルをテーマ」とする短編集をあげるというのは、相当に
思い切ったことです。
 この短編集がそこそこの成績をあげたことによって、これに続く企画を通しやすく
なったようです。これに続いたのが「エッセイ集」となったのでした。
「正午さん、”セカンド・ダウン”ってあったじゃないですか。むかし、『すばる』で
したっけ?連載してたエッセイです。あれ、本になってないですよね。」
 ということで、十年分以上の未刊のエッセイが、坂本編集者に引き継がれたわけです。