百年を生きた人2

 「百年を生きた人」というのは、高杉一郎さんの遺著「あたたかい人」みすず
書房の巻末におかれた編者 太田哲男さんの文章のタイトルです。
 この本の内容については、帯にある文章を引用しましょう。
「 文学者たちの思い出、エスペラントをめぐる交友、しなかやな児童文学論、
シベリア抑留体験、時代に抗して、真摯に書き語り続けた精神の軌跡をみわたす
作品集」
 この本の巻頭には、89年1月に行われた和光大学での最終講義が「文学的散歩 
プロムナード・リテレル」として配されています。この最終講義は雑誌「みすず」
89年9月号に掲載されたものだそうです。当方は、みすずは年に一度「読書
アンケート」のみのおつきあいでありましたので、この号の文章のことはまったく
知ることがなしでした。 
この文章についての 編者 太田哲男さんのコメントに、「故藤田省三氏は雑誌
『みすず』98年1月号掲載『97年読書アンケートへの回答リストに含めて、
絶賛した。なお藤田氏のこの一文は、その著作集に未収録である。」とあります。
これを見て二度びっくりです。「みすず」は見ていなくても、「読書アンケート」が
掲載されている号は、欠かさずに購入していて、目を通しているのでありますから
して、藤田省三さんのアンケートの回答が記憶に残っていないというのは、不覚で
あります。
 いまほど「みすず」98年1月号をとりだしてきましたが、たしかに藤田省三
さんの回答が掲載されていました。ほんとに、どうしてこれを見て、「最終講義」が
掲載されている「みすず」を確保しようとしなかったのか、まったくわかっており
ません。(いつか、単行本におさまると思っていたかな。)
 藤田省三さんの回答の部分を引用します。
「『最終講義』の模範であるのみならず、およそ人前で話をする『講義』というものの
模範的な例外といえるでありましょう。
 エロシェンコの紹介や『極光のかげに』などで以前から私は尊敬していたのですが、
この最終講義は分かりやすいだけでなく、親切でもあり、文学的世界をさらに広い
世界につながったものとしてエピソードを中心にしながら、学生に向けてはなされて
います。
 そこには、教えられたり、感動を呼び起こされたりするところが少なくありません。
・・・」
 全文を引用したいところでありますが、ぐっとがまんであります。引用は全体の
半分くらいですが、この頃には藤田省三さんは文章を発表しなくなっていました
ので、藤田さんの新しい文章を目にする機会はほとんどなくなっていたのではないで
しょうか。