薔薇と不動3

 青いバラをつくることに成功して、商品として売り出したという記事を見て、
中井英夫さんの作品世界のことを思いました。サントリーの商品紹介にある
写真を見て、これを青というのかとすこし違和感を感じたのですが、現代の
技術をもってしては、これまでなのでしょうか。
 昨日に引用した創元ライブラリ版 中井英夫全集11「薔薇幻視」に解説を
寄せている「森真沙子」さんという方は、どういう人であるのかと検索をしま
したら、中井英夫につながるような小説作品を発表している人であることが
わかりました。
 昨日に引用した森さんの解説は、次のように続きます。
「 とすれば、西暦二千年には、真っ青な神秘の薔薇がお目見えし、我々の
目を楽しませてくれることになるのだろうか。著者がはたしてこの夢の実現を
喜ぶかどうかは、疑問である。ロマンと神秘の世界が、また一つバイオの開発
によって消されることになるのだから。
 もちろん著者はそうしたパラドックスにも視線を届かせていて、『色彩は
すべて人間にとって毒の啓示であり』、そうと知りつつ『その毒の秘め持つ
魅力に痺れたのである』と苦い自戒をこめて書いている。
 専門家によっれば、薔薇作りには二派あって、まだ見ぬ色を作り出す派と、
伝統の色を美しく作る伝統派があるという。中井英夫はもちろん『まだ見ぬ
派』に属する。」
 中井英夫さんの父上は植物学者で、義兄は著名な植物学者である前川文夫
さんであります。ご自身も植物への造詣が深いと思われますし、東京の自宅
には、「京成バラ園の鈴木省三氏に選んでいただいた数十本が植え込んである。」
とありました。
 中井さんが、今回のサントリーの「青いバラ」をご覧になって、どのような
コメントを発するか興味のあるところですが、「まだ見ぬ派」の中井さんは、
まだまだ『輝かしい生きた青いバラ」には遠いというのではないでしょうか。