榛地和装本

「榛地和装本」というのは、本の書名でありますが、なんて読むのか分かって
おりませんでした。「和装」についての本ということであれば、「榛地」という
のは、なんのことであろうと思っておりました。

榛地和装本

榛地和装本

 これが「河出書房の編集者で装幀家」の「藤田三男」さんの著書であるとは知って
おりましたが、どうして「和装本」であるのか。今回、この本を入手して、この不思
議な書名のいわれがわかりました。
「『榛地和』は、私の少年時代の恩師『榛地かず』先生のお名前を無断借用したもの
である。先生におゆるしを願い、先生と先師都筑省吾先生に、この小冊子を捧げたい。」
 タイトルは、「しんちかず そうほん」と呼ぶのですね。  
「 いまとちがって、一冊の本に占める造本・装幀者の役割が低くみられてた時代に
は、藤田嗣治の装画と明らかの分かるものでも、画家の名が明記されていない、などと
いうことがしばしばある。編集者がうっかり忘れたというこういうケース以外にも、
装幀者名が記載されていない本は無数にある。
 これは俗に『社内装』といわれるもので、編集者が自ら装本したものである。・・
昭和30年代後半、私が書籍編集者として覚束ない歩みを始め、しばらくして、小規模
出版社のみならず、大規模出版社にも、多くの『社内装』本家がいることを知った。
中央公論社の高梨茂氏、新潮社の山高登氏、講談社の川島勝氏、岩波書店田村義也
氏、筑摩書房吉岡実氏、平凡社の松森務氏などの先輩編集者、いずれの本にもその
方々の記名はないが、不思議なもので、その隠れた装本家の名は著者を通して、あるい
は編集者の間で、いつとはなく知れるのである。とくに高梨茂氏の造本感覚と技術管理
への執念深さに、私は深い尊敬の念をもった。」

 岩波 田村義也さん、筑摩 吉岡実さんは有名でありますが、その他の編集者が
どのような方であるのかわかっておりません。そのなかで中央公論社の高梨茂さんは、
中央公論社の社長をしていたかたとして、名前を見たことがありました。この方の
担当していた作家さんなどの作品集の装幀をしていたということですが、どのような
作品があるのか、興味がわきました。岩波 田村さんのものは特徴のある書き文字で、
すぐにそれとわかるのでありますし、筑摩の個人全集の吉岡実さんのものも、なんと
なくわかります。それとくらべると、中央公論社の高梨さんのものは、まったく
意識をしたことがありませんでした。こんどすこしチェックをしてみますが、
本をみても、そのように記されてはいないのですから、わかるのでしょうか。