晶文社の処女出版の一冊となる「抒情の批判」大岡信著を入手いたしました。
いまから40年ほども前に、京都の古本屋で手にした記憶があったのですが、記憶に
残っている本とは違いましたので、あの時手にした本は、なんでありましたでしょう。
晶文社が始まった頃の装幀は小野二郎さんがやっていたりして、それを見かねて平野
甲賀さんが手伝うようになったというのは、平野さんが記していて有名な話しであり
ますが、「抒情の批判」には装幀者として今宮雄二という名前があがっています。
この方がどういう経歴であるのかはわかっておりません。
この本は、箱入りで雰囲気も、その後の晶文社本とはまったく違っています。本に
晶文社という文字がはいっていなければ、晶文社本とは信じることができないように
思います。
大岡信さんにとっては、この本が評論集として4冊目になります。この時大岡さんは
30歳ですから、これはずいぶんと若いことです。大岡さんの詩集と評論集のどちら
ともが伊達得夫さんの「ユリイカ」から刊行となっていますので、大岡さんの才能を
最初に認めた出版社は、ユリイカ 伊達得夫さんであるようです。
この「抒情の批判」は、伊達得夫さんに献じられています。
「 この本の初校がではじめたころ、ユリイカ社主伊達得夫が死去した。享年40歳
他の多くの先輩、友人にとってと同様、僕にとっても彼の死は言葉に尽くせない
悲しみであり、衝撃であった。彼は詩集や詩誌という、この国ではおよそ出版業の
間尺にあわないものを、詩へのはにかみに満ちた愛と造本への自信ある熱意によって
出版しつづけた。彼はこちらが書きたいと思うものを書かせ、言葉少なにほめる
ことがうまかった。・・彼の手がけた最後の本が、ぼくの新しい詩集だったことも、
今となっては悲しい因縁だが、ぼくは本書をすくなくとも30年はやく死んでしまった
伊達得夫に捧げよう。」
これに続いての文章は、9月20日の拙ブログに引用しておりますが、小野二郎さんと
の縁で、大岡さんの本は、このあとしばらく晶文社からでるのでありました。