私の本作り3 湯川成一

 湯川書房 湯川成一さんは、昨年の7月11日に亡くなりましたので、
本日は命日となります。
 「私の本作り」は「季刊銀花」14号 1973年に掲載の文章ですが、
一昨日から本日にかけて3回に分けましたが、これは掲載時の章分けにした
がったものです。

「理想的な書物については我が国においても寿岳文章氏をはじめとしてその道の
優れた先達が充分に語っておられる以上、私などに語る言葉はない。氏らの言葉
を蹈襲するだけである。書物に関しては新しい試みを必要としないと思っている。
理想的な一つの形態を実現するだけである。しかし、実際に作り上げたものはどうも
理想からはほど遠いものになってしまう。何事も理屈どおりにはいかない。
 本作りをはじめたといっても未だお尻は青い。私はいつも寿岳文章氏が氏の著書の
中で挙げておられるコブデン・サンダスンの日記の一節を思い出す。
「所謂『世間』なるものは、勝手にさせるがいい。より高い存在をば目標に置け、
永遠に。最も美しく装幀せよ(形に於ては勿論、たましひに於ても)、汝が見出す
ことのできる最も美しい書物を。さうだ、できるだけ立派に、また美しく。そのほか
のことは、捨てておいても構はない。そして装幀や装飾に於ては、常にたましひが伸
びひろがることを、たましひが低俗な生活にうち勝つことを心かけよ。そして唯一途
にひたむきに、汝自身及び他の人々のうちにある最も高いものを養ひ育てよ。所謂
『世間』なるものは勝手にさせるがいい!」
 いつの日にか、書物の工房を作りたいと思っている。一つの場所で、印刷から
製本、製函、一冊の書物を作り上げるに必要なすべての作業ができる工房である。
そこには、版画を創作できる場所もある。美しい書物を作りたいという同じ意志を
持った者たちが寄り集まって揺籃印刷本時代に逆戻るのが夢である。」( 完 )