「父の娘」として7

 初回に引用した矢川澄子さんの文章には、神谷美恵子さんと一度お目にかかる機会が
あったとありますが、これはどういう機会であったのでしょうね。矢川さんの年譜を
見ても、手がかりはありません。たった一度あった、このときに神谷さんは、矢川さんに
自虐趣味」をあらためなさいといったのでありますから、神谷さんは、矢川さんに
ついての情報をもっていたのでしょう。
 昨日に、多田智満子さんは神戸で神谷さんがやっていた勉強会のメンバーであった
はずと記しましたが、これについては、たしか「神谷美恵子日記」(角川文庫)の中に
でていたように思いますが、これはまだ確認をしておりません。
 多田智満子さんが翻訳した「ハドリアヌス帝の回想」の元版のあとがきを見てみま
したら、神谷美恵子先生に指導をしていただきたとありました。多田さんと神谷美恵子
さんについては、このようにはっきり書かれていたかと思って、これをユルスナール
コレクション版のほうで確認しますと、こちらの版の訳者あとがきは、書き直されて
いて、神谷美恵子さんの名前はでてこなくなっています。(これはすこし残念であり
ます。)
 このコレクション版の多田智満子さんのあとがきからユルスナールについて興味が
わいたところを引用です。
「 マルグリットは博識な父の指導のもとに、もっぱら個人教授によって深い古典の
教養を身につけた。母の完全な不在と父への密着が彼女の感情生活、さらに性格
形成に、深い影響を及ぼしたであろうことは疑いを容れない。彼女自身が同性愛の
傾向をもつかどうかは私の関知するところではないが、本書の主人公ばかりでなく、
一般に彼女の小説の主人公は同性愛者が圧倒的に多い。そうした<偏向>は、
フロイト理論をかりるまでもなく、この人の特殊な生い立ちからある程度説明される
ものかもしれない。」
 ユルスナールに関して、多田さんと矢川さんは、どのような話をかわしたか、この
多田さんの文章をみても、興味がわくことです。