いっぴき狼 2

 ロシア文学者であった『湯浅芳子」さんの遺産を信託として、その配当を賞金と
していたのが、湯浅芳子賞でありました。賞金は百万円ということですから、毎年
一定の金額を出し続けると、いつかは枯れてしまうようです。どのような人たちが
この賞を受けていたのかと思いますが、私財をベースにした賞は、へんに商業主義に
おちいることがなくてよろしいことです。
 そういえば、湯浅さんが生前に関与していたものに「田村俊子賞」というのが、
あって、これも作家であった「田村俊子」さんの遺産を基本財産にしていたのでは
なかったでしょうか。このような個人をスポンサーとしたものには、他にどのような
ものがあったでしょうか。
 湯浅さんというと、自ら一匹狼と名乗るだけあって、強い女性のイメージがある
ものです。湯浅さんについてのものは、瀬戸内寂聴さんの「孤高の人」が入手容易で
ありますが、いまはすぐにでてきそうにありませんので、竹西寛子さんの「人と軌跡」
に収められている文章から、湯浅さんのことを紹介です。この文章は、湯浅さんが
健在のときにかかれていますので、十分に抑制が働いています。
「群れを離れた『いっぴき狼』の矜持に生きる湯浅氏は、同時にまた『いっぴき狼』
の心底からの孤独をかみしめている人のようでもある。人恋しさのある啖呵、そこに
氏の直言の魅力がある。さまざまな角度から斬り込まれながら、その一方ではつい、
なつかしさのようなものさえ感じてしまう。」
 断髪で着物姿の写真が、この「人と軌跡」には掲載されていますが、今でいきますと
「性同一障害」と疑われそうな雰囲気であります。現実に、宮本百合子をはじめ、
女性との共同生活をしていたことはよく知られています。
「『いっぴき狼』の生命ともいうべきものの中に、宮本百合子チェーホフ
 ゴーリキーの占めている比重がいかに大きいかを改めて感じさせられる。
 この人たちは、上手は書生よりもまず『誠実』に生きようとした人たちであり、
本当の意味での人間を尊重した勇気ある人たちであり、『プチブル性』『俗物根性』
に対する一貫した反抗という展で結ばれるが、湯浅氏においては、この『プチブル性』
と『俗物根性』こそ、人間本来の矜持を失わせる黴菌なのである。可能性を抑え、
歪めるそれなのである。」