大阪留学の記 8

 文楽の世界を支える太夫、三味線、人形遣いのことを、雑誌「サライ」の
特集で竹本住太夫さんは「野球に喩えれば太夫が投手で三味線が捕手、人形
遣いは野手。お互いにしのぎを削る真剣勝負です。」といっています。
 これを読みますと、本日の出演は、太夫はどなたで、三味線はどなたかと
野球の先発メンバ−予想のようなことを思っていましますが、現実には太夫
三味線は組み合わせがきまっておりまして、「太夫と三味線は夫婦同様、
コンビを組む際に杯を交わす習わしだったという。」とありました。
 若い頃にコンビを組んだ太夫と三味線が、そのまま成長を重ねて大看板に
なるということもあるのでしょうが、どちらかが先に亡くなって、残された
ほうは若い別な相方とコンビを組んで勤めるということになったのでしょう。
竹本住太夫さんは、現在84歳でありますが、いまから50年ほど前にはるか
格上の三味線の師匠とコンビを組んで、大きな舞台を経験することになり
ましたが、名人の三味線のおかげで、「舞台で語りながら、なんでこないに
上手になったんかいなと思いました。あとで聴き直すといいところはないのに、
舞台では三味線がそういう気分にさせてくれはるんです。不思議な力ですなあ。」
といっています。
 そして、今は14年連れ添っている相方がコンビとなっているのですが、同じ力量
ではなく、実力の違う太夫と三味線を組み合わせて、芸の伝承を行っていくという
のが、文楽の世界であります。
 昭和の浄るりの名人 豊竹山城少掾は、三味線の三世 鶴澤清六にしごかれて
大きくなっていくのです、三世がなくなってからは、その弟子である四世を相方と
して、それから26年間にわたってコンビを組んでいました。それがなぜか、
生き別れとなって、コンビを解消するという思わぬ出来事があったとかかれて
いますが、普通の漫才コンビ解消以上のものがありましたでしょう。
 昨年NHKで再放送があった「闘う三味線 鶴澤清治」というのを見て、いろ
いろと分からなかったことが、これまでの学習で、やっとすこし理解ができて
きました。
あの番組は、普段はともに舞台にあがることのない「竹本住太夫」さんと「鶴澤
清治」さんが、鶴澤清治さん主催の会のために、たった一度の共演をするという
ものでした。かっては名人の太夫の三味線で、いまは若手の太夫を育てる立場と
なっている鶴澤清治さんが、太夫の最高峰である竹本津太夫さんに真剣勝負を
挑む、おたがいに譲らないその迫力に、番組をみて圧倒されたものです。
 ちなみに鶴澤清治さんは、山城少掾とコンビを解消した四世 鶴澤清六さんの
弟子にあたる人で、この世界では中堅とも思える65歳、今後の活動に注目で
あります。