小さなメディアの必要 4

 本日も津野海太郎さんの「小さなメディアの必要」晶文社の「ガリ版の話」から
話題をいただきです。
「(つづりかた運動という)多元的なコミュニケーションのしくみが成立するため
には、ガリ版の普及が不可欠の条件だった。活版印刷には大量の鉛活字や重たい
機械がいる。電気も必要だ。しかしガリ版なら、かんたんな道具さえあれば自分
ひとりの力で印刷ができる。しかも工夫しだいでは、びっくりするほどうつくしい
印刷物をつくることも不可能ではない。すでに黒船工房の同人たちはB全判、二十度
ずりの多色印刷の技法まで開発していた。教師たちは夜更けの宿直室で鉄筆をにぎ
り、原紙を切った。昼間の授業で子どもたちに書かせたつづりかたを印刷し、とじて
みる。するとそこにつづりかた文集というあたらしいメディアが生まれた。
 ちいさな複製技術によって出現したメディアの力と、その発見のよろこびとが、
生活つづりかた運動の多元的なネットワークをささえていく。」

 1930年代くらいには、二十度刷りの多色印刷の技術を開発しているのであり
ますから、これはほとんど版画のようなものであります。こうしたガリ版技術は
60年代後半くらいまで、ガリ版を軽印刷の主役としていたのです。
 ガリ版と鉄筆というスタイルが変更となったのは、ファクシミリ技術が応用される
ようになったことによりますが、原稿を読み込むと、それが原紙に自動的に刻み
こまれる仕組みが開発(電気が必要です。)され、それによって印刷の版がつくら
れることになりました。この版を輪転機にかけるということによって、ローラーで
一枚づつ刷るということがなくなりました。
 堀井が開発した謄写版技術は、プリントごっごを開発した会社によって、「リソ
グラフ」というコピー機と同じような感覚で印刷できる機械に進化して、21世紀に
生き残っています。
 ここまでスマートになりますと、ハイテクすぎて「小さなメディア」のツールとは
いえなくなります。
 むかしは同人誌というと、ガリ版印刷が主流でありました。かって存在したミニ
出版社には、ガリ版印刷を製本して販売しているところもありました。
小生の手元にも何冊か、ガリ版印刷の単行本が保存されていますが、そうした一冊に
川崎彰彦さんの「私の函館地図」(75年11月 境涯準備社刊 200部 )と
いうものがありますが、定価は800円ですから、完売しても手間賃もでないもの
です。
 ガリ版出版は、作品を世の中に送り出すのが目的であって、資金を回収するのが
精一杯であったようです。