枯葉の踊り 5

「 最近考えると、印刷に関する私の夢の抱き方は、どうも見当のずれがあった。何から
なまで自分一人の手でやりたいと思っても、そうはゆかないことが世の中にはいろいろと
あって、印刷もその一つだということに、もっと早く気がつくべきであった。
 それよりも、小さな印刷所とせっかく知り合いになったのだから、金を払ってもそこで
働きながら、機械の休んでいる間も利用していたずらさせてもらうべきであった。
 そういえば、謄写版印刷機ではある。そしてこれを巧みに使いこなすと、すばらしい
多色刷が可能だし、謄写版による優れた版画作品を見た。」

 以上に引用したのも串田孫一さんの「枯葉の踊り」という本にある「印刷の魅力」から
であります。

 いまはほとんど姿を消してしまった謄写版印刷というのは、小生の世代が一番親しんだ
印刷方式であるかもしれません。謄写版印刷というと、黒一色という思い込みがありますが、
版を変えれば多色刷りもあるというのは、ずっと後になって知ったことです。小生の住む
街の公民館講座では、年賀状作成の時期を前にして謄写版印刷で年賀状多色刷りのものを
作成するという講座がありまして、毎年、この講座にでて年賀状を作成し、それで賀状を
くださる方がいらっしゃいました。
 津野海太郎さんの「小さなメディアの必要」にも取り上げられていた「森の中の印刷所」
でも活躍(のはずです。)していたのは、謄写版印刷でありまして、活版印刷よりもずっと
手軽に取り組むことができて、ちょっとした町には孔版印刷というのを看板にかけていた
ところもありました。