精神の風通しのために3

 日高普さんの「精神の風通しのために」は全体が5章よりなりたっていて、
 1 社会  2 文学  3 映画  4 歴史  5 人物 のような
ジャンルになっています。
 小生のとって一番縁遠いのは、「宇野弘蔵論」とか、「マルクス主義的批判の
一考察」という文章を所収した「社会」というくくりでしょう。
 一番なじみがあるのは、「文学」という章で、ここには塔晶夫版「虚無への供物」
についての文章があります。1964年に塔晶夫の「虚無への供物」について、
絶賛した文章は、「日本読書新聞」に掲載となったものですが、小生にとっての
日高普さんは、もっとも早い時期に塔晶夫版「虚無への供物」をきちんと評価
した人でありまして、この作品が現在うけている評価の、先取りした方でありま
した。
「 半年も前のことであろうか。塔晶夫というみなれない著者の探偵小説『虚無
への供物』が出版されたときにぼくが見たかぎり評判はそれほどよいものでは
なかった。ぼくは本屋で大分ためらった末、思い切ってこの本を買った。
そしてー賭けに当たったわけである。ぼくは一度よみ、二度よみ、さらに、
三度くりかえした。この一年間によんだ本のなかで、これほどぼくを興奮させた
本はほかにない。
 塔晶夫は新人なのだろうか。旧人でないから新人にはちがいがないのだが、
新人という言葉には、これからも活躍するというニュアンスがある。ところがこの
作者は『虚無への供物』以後何も書いていないし、今後も書かないであろうと
思う。少なくともぼくはそうあることを望む。塔晶夫はこの一作ことだけで
消え去るべきだ。」

 この文章を書いたときに、日高普さんが塔晶夫さんのことを認識していたか
どうかが気になるところであります。
それにしても、塔晶夫は、この一作で姿を消すべきでいってるのですが、塔晶夫
さんは、このアドバイスを受けたかのように、その後、このペンネームで作品の
刊行をすることもなくなってしまったのです。