二列目の人生

二列目の人生 隠れた異才たち

二列目の人生 隠れた異才たち

 池内紀さんの「二列目の人生」が集英社から文庫本となりました。文庫本の
書影がないので、元版のものをかかげることといたします。晶文社は文庫を
もたないので、文庫化のために草刈り場となっていると聞いたことがあります。
文庫になるスピードが速いなと感じましたが、すでに5年もたっていますので、
とりたてて早いというわけではありません。
 晶文社からでた時に、この本は話題になったものですが、このタイトルを目に
した時に、これは作家を囲む集合写真などで「ひとりおいて」ととばされることの
多い編集者のような「黒衣」について取り上げたものであると思いました。
 実際は「ひとつのことに打ち込み、自分のルールで生きている。たとえ世間と
ぶつかっても、妥協しない。・・・・歴史に埋もれた天才たち15人が鮮やかに
蘇る。」
 この本のサブタイトルは「隠れた異才たち」となったおりまして、それなりに
有名であったが、スーパースターにはならなかった(なれなかった)人の肖像で
あります。あまり立派すぎる人(トップランナー)は、敬して遠ざけたくなります
ので二列目くらいでちょうどいいか、それでもまだ偉すぎるのかもしれません。 
 この本に取り上げられているひとでは、「小野忠重」さんに興味がわきました。
「 小野忠重が版画誌の収集と保存を思い立ったのは、それが時代の荒波のなかで
消えてしまうのを怖れたからだろう。手作りのおぼつかない画廊兼ジャーナリズムで
あって、官展のように豪華なカタログにとどめられない。版画誌が失われれば、
そこに貼附されたオリジナル作品も消え失せる。」

 この方のコレクションを展示した「小野忠重版画館」というミニ美術館がある
のだそうですが、ここには、「グループ展のチラシ、案内はがき、リーフレット
写真入場券、手書き地図。よくまあ、これほどまでに保存されていたとあきれる
ほどだ。・・・息子にとっては『捨てない人』、息子の嫁には『捨てさせない人』
だった。 包装紙、新聞、広告、封筒、何であれ第二、第三のご用がある。」 
 
 「捨てない人」、「捨てさせない」というのも程度の問題でありまして、新聞を
捨てずに二階の床が抜けたなんて話を聞きますと、家族は大変な迷惑をしていた
ということを感じます。どのように良いことであっても、捨てずに保存すると
いうのは周囲の理解がなくてはできないことです。
 小野忠重さんのご家族は、お金にはほとんど縁がなかったような小野忠重さんの
仕事ぶりを尊敬していて、それを継承して自宅で保存と展示をしているのですから、
このような家族をもったことが、小野さんにとっては何よりの幸福です。