垂水書房のこと 2

 篠田一士さんの本で最初に手にしたのが垂水書房「現代イギリス文学」であると
いうこともあって、垂水書房、天野亮さんについては、ずっと気になっていたの
ですが、ネットで検索をしても、垂水書房では古本屋の在庫はでてくるものの、
この出版社がどのようにして成立したかということへの手がかりはありませんでした。
 昨日に記しましたが、垂水書房へのアプローチは吉田健一さんとの関係からいく
のが一番よろしいようであります。吉田健一さんの著作の蒐集を続けている西村
義孝さんは、吉田健一さんのものを、あわせて80冊も刊行している垂水書房の
ことが、やはり気になったとあります。
 天野亮さんの名前を、西村さんがはじめて見たのは、やはり吉田健一さんの
池田書店版「シェイクスピア」52年6月刊 のあとがきのなかとのことです。
「 これは今から三年ばかり前に、池田書店編集部の天野亮氏に依頼されて
 始めた仕事である。」
 
 やはり垂水書房からでている福原麟太郎さんの「昔の町にて」58年のあとがき
には、「かって私の教室にいた天野亮君が垂水書房をはじめての独立第一歩の出
版で」とあるとのことで、これから東京高等師範の英文学科の卒業生であるという
ことがわかるのでした。
 吉田健一をのぞくと福原門下というつながりで整理される垂水書房の企画が
あります。その代表格は、外山滋比古さんでありまして、彼の代表作となる
「修辞的残像」とか「近代読者論」といったみすず書房からでたものも、もとは
垂水書房からのものであるということを、初めて知りました。

 以下も西村さんの文章にある「修辞的残像」外山さんの引用の孫引きであり
ます。
「 『修辞的残像』の版元、天野亮君の垂水書房が行き詰まって、つぶれた。
 借金のかたに、紙型が印刷の精興社に召しあげられてしまった。もうこれまでかと
 思っていると、みすず書房小尾俊人氏がうちで出すといってくれた。」
 
 
 このように追跡調査をしている西村さんにとっても、行き詰まってからの
垂水書房 天野亮さんの足取りは、つかめないとのことであります。これは
吉田健一さんの記するもののなかに、天野亮さんが登場しないことにも
よりますでしょう。
 垂水書房の刊行目録を見るにつけ、よくもこれだげ吉田健一さんのものを
出し続けたことよと驚くしかありません。