限定本の蒐集家 2

 清澄堂文庫のご主人は、限定本の二番本を中心に蒐集を行っていたとのこと
ですが、「購入した本が汚れたり、変色しないように紙に包んで書架や戸棚に
大切に蔵った。そんなに本を大切にした彼であっただけにその保存には苦労した。」
 戦中派である在京の蒐集家にとって一番頭がいたかったのは、蒐集した本を
戦災から、どのようにして守るかであったようです。
清澄堂文庫にあっては、「重い本を背負って混雑する汽車とバスのなかをもまれ
ながらも東北の郷里に運び出すこと数回、一部分ではあったが分割して愛書を
恙なく戦災から守り得たことは何より幸せだった。」
 ご主人は、「昭和42年7月に『限定本書影・目録』作成を機に、30年以上に
亘り営々として蒐めてこられた蔵書のほとんどを手離されることになり、7月16日
帝国ホテルにおいてその展示会が開かれ574点が出品された。当日は全国から
愛書家が集まり、いままで話には聞いていてもまだ見たこともなかった本の
素晴らしさ、その保存の良さに圧倒され興奮した。・・・・
 それからわずか半年後、なくなられるとは予想もしなかった。30数年間、
精魂を籠めて蒐め且つ愛してこられた本との別れは、精神的に大きなショックで
あったのだろうと私は思った。」とあります。
 30年以上も精魂をこめて蒐集したものを手放すというのは、よほどのことが
あったのでしょう。自分の死期をさとったために、自分のできるうちに自分の
分身であったような蒐集をまとめ、そして亡くなったといえなくもありません。
 コレクションの処分ということでは、これは大変に見事な例で、見習わなくては
いけないことです。