マリ・クレール 87年9月号

 中央公論社が嶋中家のものであった時代は、それはそれでアナーキーな仕掛けが
ありました。中途採用の編集者をどんどんと採用していたものと思いますが、その
なかの一人が、スーパー編集者の安原顕さんですが、文芸誌の「海」から転じて
マリ・クレール」に在籍していたころが、いま考えると一番よかったのかも
しれません。文芸編集者を自認していたことからすると、いつ廃刊となっても
不思議でない女性誌編集部に異動したというのは、左遷以外のなにものでも
ないのですが、まあめげないというか、ころんでもただではおきないというのが
スーパーエディターのエディターたるゆえんでありましょう。
 いつ廃刊してもよろしいというのは、ある意味なにをやってもありという
ことで、それがこの雑誌を後生に残るものとしたといえるでしょう。
 女性誌でありますから、ファッションとかのページがたくさんあって、
どこからどこまでが広告と記事なのかというのが、判然としないのですが、
そんななかに、高橋源一郎浅田彰の対談「新教養主義のススメ」というのが
あって、そこから特集「文庫本の饗宴」がはじまるのでした。
 小生は、どちらかというと読書系の特集がくまれているときに、このマリ・
クレールを購入しておりまして、いまでもそのままで10冊くらいは残って
いるのではないでしょうか。
 なかには、特集だけを取り出して「角川文庫」にしたものもありますが、
そのくらいの特集であったということでしょう。
 本日、書棚から抜いてきた「87年9月号」は文庫本の特集になりますが、
さすがに20年前の文庫ラインナップでありますから、いまは入手できない
ものも多くあって、この特集をいまに文庫でまとめるとすれば、ここにリスト
アップされているものの品切れを確認するだけでも一仕事であることがわかる
のでありました。
 この高橋、浅田対談では、どちらかというと高橋源一郎さんが話をリード
しておりまして、次のようなことを発言しています。
「 そういえば、新潮社版のドイッチャー『トロツキー伝』全三冊なんて大昔
から絶版なんだけれども、あれも文庫化してほしいね。ジョン・バースの『酔いどれ
草の仲買人』も集英社文庫にいれてくれないかなあ。日本は翻訳大国だなんて
いわれているけど、現代文学にかんしてはほとんどゼロにちかいんじゃな。
絶版ばかりで。」
トロツキー伝」はともかくとして、ジョン・バースの「酔いどれ草の仲買人」
については、これまで文庫になっていないのが不思議なくらいであります。
「考える人」のアンケートで、票があまりはいっていないのは、これが
容易に読めることになっていないことと関係があるのではないかと思うので
ありました。集英社文庫にいれたらと、20年前にいわれていて、いまだに
実現しないは、読む人がいないということかな。