裸の大将一代記 2

 小沢信男さんの山下清さんの評伝 「裸の大将一代記」には、興味深い人物が
多数登場しますが、その昔に、山下清という名前を聞いた時に、真っ先の思い
だしたのは、「式場隆三郎」さんでありましょう。
 なんというか、極めて多方面で活躍をした人でありまして、小沢さんの本での
紹介には、次のようにあります。

「 敗戦後の式場隆三郎は、事業家の面が拡大する。昭和21年2月『東京タイムズ』
を創刊し、代表社員主筆となる。戦後の数ある新興新聞のなかの『東京タイムズ』は
代表選手といえた。その当初の十年間を、社長、会長として実務を切り回した。
 翌22年にロマンス社を設立、雑誌『ロマンス』『婦人世界』等を発行する。
23年には、日比谷出版社を創立、永井隆長崎の鐘』のベストセラーをはじめ続々
出版した。
 戦後の飢餓時代は、食糧のみか、万人が活字にも飢えていた。その時期に彼は、
新聞、雑誌、書籍の三分野にわたって、飢えを癒す人となった。」

 この式場さんの本業は、精神科医師であります。式場さんの著書によせたという
柳宗悦の跋文が紹介されていますが、式場さんについて、日本の民芸の父である
柳さんは、次のように書いています。
「式場君は精神病学が専攻であり、一方いつも美の世界に心を惹かれている。
 実にこの二つのものが結びあったのが、この題材である。・・そのせいか文章も
内容も書きぶりも、活き活きして淀みがない。・・二笑亭の建物は救うべきであった。
・・だが、其の廃棄の寸前に式場君の注意を惹き、其の筆によってせめても其の面影
が伝えられたのはなんたる幸いなことか。」

 式場さんの代表作の一つに「二笑亭綺たん」という著作がありまして、この本は
ちくま文庫にもはいっているのですが、「病的思想から考案した家を造って、それに
生活をあわせていこうとした希有の人である。」ということからも、二笑亭さんも
興味を惹かれる人でありました。