パステルナーク詩集

 いつも通っている街の本屋にはぜったいに入荷しない本が、どうしたことか、
この街のブックオフにはならんでいて、本日は、単行本が500円という表示が
ありましたので、そうした一冊に手が伸びました。( 表示ある棚の単行本は
みな500円とおもわせる書き方ですが、すこし高価な本をその表示ある棚の
上のほうから抜いて、レジに持参しましたら、これは除外品ですといわれて
しまいました。それならそう書いてくださいなです。)
 本日に手にして購入しなかったのは、福武書店八木義徳全集」全8巻でして、
これは各巻500円の表示でした。古本屋ではけっこうな値段がしていますので、
買ってどこかに持ち込めば、すこし軍資金ができたかもしれませんが、どなたが、
この全集とこの店頭でであって、大喜びすることがあれば、そのようがいいでしょう。
 購入したのは、次の一冊です。


 ボーリス・パステルナーク詩集「早朝列車で」 工藤正廣訳  未知谷刊

 薄墨で工藤さんの献呈とサインがはいっているものです。
工藤正廣さんはパステルナークを中心に翻訳をしているロシア文学者であります。
パステルナークといえば、映画化された「ドクトルジバコ」の作者ですが、作品は
映画になったので有名でありますが、作者のことはほとんど知られていません。
詩については、工藤さんがせっせと翻訳していてすこしは手にすることができる
のですが、パステルナークなんて人に興味をもっているひとがどれだけいるので
しょうか。
 「ドクトルジバコ」は、革命後のロシア体制に批判的な作品であるということで、
ノーベル賞の受賞が決まるのですが、パステルナークは受賞を辞退するということに
なりました。日本では、革命ロシアに批判的なものということで、時事通信社から
翻訳がでていたのですが、この翻訳は評判がよろしくなかったのでした。
いまから30数年前に、工藤正廣さんが翻訳に着手して、冒頭のところを冊子に
まとめて発表したことがありました。それまでの翻訳とはレベルの違う、みずみず
しい日本語であると話題になり、ロシアの収容所を経験した内村剛介からも翻訳が
ほめられたのでした。
 小生は、いつか工藤訳で「ドクトルジバコ」読める日がくることを楽しみにして
いたのでしたが、これは改訳がすでにでたせいもあって、工藤訳が書店に並ぶことは
なさそうであります。
 この「早朝列車で」の冒頭におかれている「芸術家」という詩の一節を引用します。

 わたしの性にあうのは
 芸術家の名匠気質がまさった強情さだ。
 彼は美辞麗句をお払い箱にして、人の視線から隠れ、
 己のものした著作を恥じている。

 だが顔はだれにも知られている。
 彼は隠れんぼの一瞬を逸したのだ。
 たとえ地下室に身をひそめたところで、
 用意にはもとへは引き返せない。
 
 己の運命は地中には葬れない。 
 いかにいきるべきか? はじめから曖昧だったのだ、
 彼を認知した批評など、
 生きているうちに忘れ去られる。